IT企業を立ち上げ数年で売り上げ数十億円を作ったという天才博士を紹介してもらった。
彼の会社は、あっという間にベンチャーキャピタルからの出資が集まり、上場寸前まで行ったのだがベンチャーキャピタルの裏切りによって廃業に追い込まれたという、かなり惜しいところまで行ったという人だった。
彼の話を聞いていると、その知識に圧倒され、そのハイレベルな人脈にも唸らされた。
さらに良く聞くと、米名門大学で学士から博士まで取得していたことが分かった。
もっと良く聞くと、彼が着ているシャツに入ったロゴは数年前に倒産した彼の会社のロゴだということが分かり、日本では知り合いの家に泊めて貰っているというところまで分かった。
あまりにも天才的なので、もう一度会って話を聞くと、彼はアジアにも会社を持っていて、ついでにアメリカではどこに住んでいるのかと聞くと、敬虔なクリスチャンなので教会に住んでるらしいことも分かった。
帰り際に彼は、
「その会社の経営は難しいだろう。ぼくが社長やってあげよう」
と言った。
「一応、私が社長ですが…」
と答えると、彼は五秒黙り込み、
「よし、では共同経営者として、お給料ください」
と妥協した。
帰り道、アシスタントが、
「あの人、ホームレスですよね?」
とポツッと言った。私もそれを懸念して、住処を聞き出そうとしたが、彼にはそういう概念は無かった。
「ホームレスなのに、いきなり君の会社の社長になってあげるよっていう提案をする不屈の精神が、日本がアメリカに勝てない理由だと学んだよ」
と答えた。
彼に一つ言い忘れたのは、経営者とは給料貰ってやる仕事ではなく、払う側だということだった。
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不屈の精神
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