この一年ほど、若手起業家の間でビットコインビジネスが流行っていた。
ビットコインとは、ピアツーピアで取引できる低コスト型の仮想通貨だ。低価格の取引でも手数料が安いので、利用者にも負担が少ないのが人気の発端だが、人気の理由は他にあった。
ビットコインを金だと仮定しているかのように、それを掘り出すマイニングと呼ばれるソフトウェアがあり、マイナー(採掘者)がマイニングソフトウェアで簡単な数学的な問題を解くことで報酬にビットコインが貰える仕組みになっている。
ビットコインの取引の正当性は、そのマイナーたちが取引履歴にアクセスできるようになっていて、与えられた取引情報をブロックにして、つないで行くというプロセスが取られる。不特定多数のマイナーたちがブロックを繫いでいると、より多くの人がビットコインの正当性を認めたということになり、そのビットコインの取引は成立するという仕組みだ。
自分も起業家なので、いくつかビジネスコンテストに出ているうちに二十代の若手起業家に出会うようになった。
しかし、彼らは特にビジネスをしてる訳ではなく、起業家という体でビットコインをマイニングしようとしているだけのグループだった。そんなのゴールドエイジに、金山に押しかけた労働者と何が違うのか自分には分からなかった。
「ビットコインがいま熱いんですよ!!僕は金融の仕事が夢だったんです!」
なにかに浮かされたような若い男の子たちに、あやうっかしいなと何と無く思っていた。
ー 通貨発行の基本構造無視した仮想通貨を有り難がる段階で金融マンとしてはアウトでしょ。
大学で経済学を学び、外資金融機関で勤めてきたので、仮想通貨には懐疑的だというのが本音だ。
通貨
「つーか、通貨ってさ、発行元が価値を保証して始めて成り立つもので、それそのものには価値がないんだよね。だから、私はビットコインってあんまり信用できない」
と、一番の右腕である大林に話しかけた。
「へー、そうなんですか。私も、昔起業した時に、色んな人が円天にハマったのみて、そんなお金あるのかな~って疑問に思ったんですよね」
「通貨って、発行元が一番有利な訳ですよ。だって、自分がお金刷りまくれる立場にあるんだよ。そんなの普通なら、信用しないよね。私たちが有り難がって使ってるお金だって、所詮はその紙切れ自体の価値で構成されてる訳じゃなくて、裏で日本政府が価値を保証してくれてると信じてるから使える訳ですよ。より多くの人が信用している通貨だけが、この世で使える仕組みになってるんだよね。政府に信用がない時代なんかは、政府は中央銀行に金を積んで、何かあったら通貨と金を交換するって約束してたんだから。
だから、今日明日とか、私たちが通貨発行しても、だ~れも使ってくれません。だって、価値を保証する資産も信用も無いんだもん。当然だよね、一般の一庶民なんだから。」
「へー、でもビットコインって、すっごく流行ってますよね」
「だから、それが不思議なんだよ。誰が発行してるか分からないお金なんだよ。しかも、デジタルだから作ろうと思えば作れちゃうわけ。偽物通貨みたいに輪転機いらないから、そこにコストがかかんないわけです。ボーダーレスな通貨なので、どこの金利を見るべきか、どのインフレ率をターゲットにするのかとか、通貨供給量をコントロールする基本指標が存在しないんだよね。通貨供給量は、インフレ率に影響するから社会に与えるインパクトが大きい、だから国は基本的に慎重に通貨供給量を決めてるんだよね。
何の指標をターゲットにする必要もなく、発行元が供給量を増やせば価値は簡単に暴落するし、発行者はお金欲しい時にビットコイン作ればいいんだから、こんなのユーザーが一番不利だよね。
大林、ビットコインなんて、仕手株と一緒だからね」
昔、仕手株屋と戦ってきたことを思い出しながら、そう締めくくった。
「そうですよね。ビットコインの価値を裏付けるモノって、実はよく分からないですよね。でも、、」
現実社会では、ビットコインの価格を表すチャートがこのところ急騰を見せていた。
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ビットコイン熱
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