「すみません。実は、スパイによる衛星ハッキング事件について相談したいんです」
中央警察で深田は受付に相談すると、『来たな、電波系め』と冷たい視線を感じた。
「相談内容は何ですか?」
「実は、政府研究所の衛星実験で衛星を丸ごとハッキングして、衛星管制型の兵器を乗っ取る準備をしてる人物がいて…」
「実際に被害に遭ったんですか?被害者は誰ですか」
「いや、まだ被害は無いし、事件になれば被害者は国民全員なんですけど、誰に相談したらいいですか?」
「被害無いなら、被害届け出せないから意味無いですよ」
とそっけなく突き返され五分ほどすったもんだ。
「じゃあ、とりあえず刑事課へ」
刑事課へ案内され、深田は衛星がハッキングされそうだと言うことを説明した。
「深田さん、どうして衛星が狙われるんですか?」
「次世代型の兵器は衛星管制だからです」
「それで、どうして衛星が狙われるんですか?」
「衛星をパソコンみたいに乗っ取れば、偽の指令を出せます」
「どうやって乗っ取るんですか?」
「衛星のコントロールリンクに不正アクセスすれば、できるんです」
「それは、こちらの管轄ではありません。衛星って宇宙ですよね」
「じゃあ、どこに相談したらいいんですか」
刑事課での衛星とネットワークの重要性の説明だけで一時間ほど押し問答する羽目に。そもそも警察は情報セキュリティの知識が乏しいのか、この部署がいけないのかと周りを見渡すと『知能犯係』という札がかかっている部屋が見えた。
「すみません、知能犯係に変わって貰えます?」
と深田が聞くと、刑事課の刑事は喜んだ様子で知能犯部へと深田達を回した。ようは電波系だと思われているのだ。
「どうも、知能犯係の者です」
「実は情報セキュリティで最も重要な衛星へ不正アクセスして乗っ取るプログラムを送り込もうとしている中国スパイがいて…」
「待って、僕ね、パソコンのことわからないんですよ。生活安全課に行って貰えませんか?」
意外にも知能犯係に瞬殺断られた。
「え?でも、ハッキングとかは知能犯じゃないんですか?」
「深田さん、知能犯係ってね、頭がいい犯人じゃなくて、暴力を伴わない事件を扱う部署なんです」
「ハッキングがダメなら、何の犯罪が仕事なんですか?」
深田が食い下がると、
「主にオレオレ詐欺です。けっこう忙しいんですよ」
と意外な回答が来て、深田は目を丸くした。
『オレオレ詐欺、知能要りませんよね』
エリは無言でこちらを見て、深田はこくりと頷いた。警察対中国スパイ、明らかに敵の知能が優っている。
「あ、犯人は中国スパイと言いましたね。そうだ外事二課だ。外事呼びます」
と更にたらい回しになった。区役所にいるのかと錯覚するくらいだ。
桜田門から三名の外事警察がやってきた。
桜田門勤めの刑事は、眼光鋭く、身体付きも中央警察の刑事とは格段に違った。
陣内刑事は、「ファーウェイ」という言葉を聞いて顔色を変えた。
深田は話を続けた。
衛星実験に、イラン人が関わっていること、実験前に2ヶ月ほどイランに帰国していたこと、中国を経由していたこと、職員が情報収集衛星に北朝鮮人が混じっているとボヤいていたこと。
エリが大学に訪れたファーウェイ社員の名刺を出すと、刑事が「アイウェイか…」と呟いた。
「深田さん、お話はだいたい分かりました。また、何かあればご連絡ください」
そう言って陣内刑事は深田たちを見送った。
「萌絵さん、刑事さんがアイウェイに反応してましたよね。有名なんでしょうか」
「さあ、私はスパイの話なんか警察でして、精神病だと思われてそうでヒヤヒヤしてそれどころじゃなかった」
と深田はボヤいた。
アイウェイか…
確かに有名なのかもしれない。
続く