この話の続き
(2016年2月1日の話)
英語は得意では無い。
仕方なく使っているだけだ。
だからこそ、英語で怒られると精神的なダメージが大きい。
「うーん・・・」
キーンコーンと近所の小学校のベルが鳴るというのに、今朝はなかなか起きられずに深田はベッドでもぞもぞしていた。
電話が鳴る。
ヤバいぞ。モロ寝起きの声だ。
「あ、もじもじ・・・」
だみ声で電話に出る。風邪もひいてるので鼻声も甚だしい。
「ハロー、フカダ。今回の件、米防衛省には報告しておいた。僕は今後、日本に軍事用の電子部品を輸出するのは消極的にならざるを得ない」
「・・・」
深田は何とも答えようがなかった。
深田は軍事グレードの電子部品を輸入するのは、三菱重工みたいな大手なので自分は関係ないと言えば直接は関係ない。
打撃を受けるのは自衛隊だ。
「今度、耐放射線技術の重要性について、君にメールをする。それを裁判官に見せてくれ。それでも、裁判官が輸出規制は関係ないというかどうかを教えてほしい」
彼はそう言って、電話を切った。
「朝から英語はキツイ・・・」
深田は電話を切って、枕に顔を埋めた。熱も出ているので、脳みそが朦朧とゆだっているような感覚だ。
暫くして、彼からメールがあった。
長いが全文を掲載する。
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防空当局の書類には世界的な宇宙航空産業 向けの2007に上るマーケットデータが含まれている。やや古いし、範囲は限定されているとはいっても十分にカバーされている非常に確かな市場データだ。
耐放射線の定義と概念は下記URLに説明されている。
reference: http://web.cs.ucla.edu/~rennels/article98.pdf
宇宙関連輸出規制の報告書は2014年に発行され、これは明らかに防衛産業と商業的に耐放射線技術には価値があるということを示している。
放射性物質は地球上の異なるエネルギーレベルにおいてはどこにでも偏在する。例えば、海面にも放射性物質はある。ある有名なIEEE(米国電気電子学会)論文で、ボーイング社の放射能研究室のユージン・ノルマンドがその効果を指摘している。その効果については、多くの電子システムの故障は地球上のあらゆる場所において自然的に発生した放射線によって引き起こされたと観察されてきている。
覚えておかなければならないのは、耐放射線というのはフォルトトレラント(耐故障性)という専門用語の異なる呼び名だ。放射線は、(電子システムの)ソフトエラーやハードエラーを起こすトリガーの触媒になる。しかしながら、フォルトトレラントは耐放射線の一つ上の層しかカバーできず、エラーを生じさせる触媒(放射性物質)に関わらない故障であればリカバリが可能であるということだ。その点はデータセンターにとっては非常にクリティカルな問題で、高速通信システムや、チップ間通信、ASICのような半導体設計でも、直接的に歩留まりを向上させる。
耐放射線/フォルトトレラント技術は機能的な安全認証の世界では非常に重要なテーマで、例えば自動車業界、産業界、航空産業界などがいい例だ。この技術の市場は軽く10億ドル(1200億円)を超える。この市場に進出するには、最初の質問はパフォーマンスでは無く、信頼性なのである。特に、FIT(単位時間あたりの平均故障発生件数)率だ。どんなソフトウェア技術、ハードウェア技術も直接的にFIT率を向上させるならば、それは最終製品の60%以上の価値を出す。認証の権限者はこの点を非常に重要視している。
民生用の無人システム(飛行システム、無人運転車、大量輸送機)利用の拡大において、フォルトトレラントが一番の関心事であり、また、それは非常に高利益の技術である。
言及するまでも無いが、フォルトトレラントは宇宙航空機器や防衛機器に対して非常に高価値である。添付の書類に見られるように、これらの技術は歴史的に各国で守られていて、輸出規制技術として取り扱われているのである。
今日の環境では、民生用の耐放射線アプリケーションの事例としては宇宙空間用のグローバルなインターネットバックボーンの創立である。そのなかで知られているものとしては「OneWeb」がある。
(https://en.wikipedia.org/wiki/OneWeb_satellite_constellation).
民間企業で耐放射線技術に依存しているのは、Google、Facebook、プラネットラボ、スペースエックス、ブルーオリジン、オービタルサイエンス、エアバス宇宙システム、ボーイング宇宙システム、テールズ、BAE,ロッキード、ハネウェル、ハリス、三菱重工、IBM,マイクロソフト、ファーウェイ、シスコ、エリクソン等が挙げられるし、それらの企業に限った事でも無い。これらは単なるこの技術の一例で、彼らは自分たち自身で耐放射線トレラント技術開発に多額の投資を行なっている。
耐放射線技術への投資の一例としては、CHRECという耐放射線技術の研究所は複数の企業や政府機関から投資を受けている。(http://www.chrec.org/)
世界中の政府機関はあらゆるアプリケーションへのフォルトトレラント技術に高い関心を持っていて、これらの技術は厳密に機密として守られるべきだと重要視されている。
周知のように、仮想化というのはソフトウェアとハードウェアのプラットフォームの機能を兼ね備えていて、マーケット規模は非常に大きい。この記事も少し古いが、2013年の記事でフォルトトレラント技術が仮想化市場において非常に重要であると述べられている。
http://web.cs.ucla.edu/~rennels/article98.pdf
結論を言うと、フォルトトレラント技術に対する市場価格と言うのは軽く200億ドル(2兆4000億円)を超えると言える。
ベストリガード
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深田はカタカタとメールを日本語に訳しながら、彼の美しい英文、トラディショナルな英単語の使い方に感銘した。
「やっぱりスタンフォード卒のエリートはレベルが違う。ただ、それよりも・・・」
重要なのは手紙の内容だ。
耐放射線技術は自動車関連企業にも重要な技術で、数年前にアメリカで日本の自動車メーカーが何度か原因不明の事故を起こしたが、あれは半導体チップに放射線が当たった為に生じたソフトエラーだと防衛関連の半導体エキスパートの間では言われている。
ほんのわずかの間だけに起こったソフトエラーでも、高速で動いている自動車や航空機では事故になりかねないため、耐放射線レベルを計るFITというものが設定されている。
うちのソースコードを解放軍が調べれば、米軍がどの程度のFITレベルを設定しているかがわかってしまう。
FITレベルの設定が分かれば、その電子部品を使った機材に対して証拠が残らないレベルでの放射線を浴びせれば、いきなり機材が故障しても原因究明に何年もかかってしまう。
2011年3月11日、福島原発で事故があった。
高放射線下でも、動けるロボットや監視カメラを作ろうと思って、マイケルの技術を日本に広めようと思った。
そんな自分の思いとは裏腹に、耐放射線技術は中国人民解放軍の手に渡ってしまった。
日本の裁判所も警察も何を訴えても知らん顔。警察に至っては、被害届の受理すら拒否するありさまだ。
多くの読者からメッセージを貰った。
「どうして然るべきところに相談しないのか?」
と。
警察、検察、経産省、総務省、国会議員十名弱ほど相談したけれど、私のような個人の話なんて、金にも票にもならないので聞いてくれない。彼らは国を守るのが仕事なのでは無く、給料分の仕事をするのが仕事なので、輸出規制下の技術が中国に盗まれようが無関心だ。
他に打つ手がもう思いつかない。
「あとは、この手紙くらいか・・・」
TO BE CONTINUED
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【場外戦21】米防衛企業幹部からの手紙
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