崖から滑り落ちて亡くなった叔父にお線香をあげに山へ登ったよ。
とは言えども、叔父の亡くなった山は女性にはキツい男山なので、その山が見える別の山へ。
叔父が、崖から落ちた日は同じ場所で三人が亡くなったそうで、雨で足場が滑りやすかったそうだ。
その日は、母の産後の退院日で、母が兄を抱いて車で祖母の元へ帰宅したところ、祖母は、車の後部座席に叔父が座って兄の顔を覗き込んでいる様子を見た。
「どうして、車から一緒に降りてこないの?」
と、祖母が聞いた時に、母は笑って、
「お母ちゃん、なに言うてるの。今日、あの人は山登ってんねんで。来れるわけないやんか」
と答えた。
叔父の訃報を母が聞いたのはそれから何時間も後のことで、母は優しい彼が「退院したら、一番に赤ちゃんの顔を見にきます」と約束したことを思い出した。
彼は約束を守る為に、母の元を寄ったのだ。
山小屋から、叔父が登った山に向かって、一本の線香を捧げた。