オフィスに入ると、台湾語と中国語のアナウンスが流れてる。マイケルが腕組みして目を瞑り、台湾の政治番組を聴いてるのだ。
以前、マイケルに聴いたことがある。どうして、台湾に帰らないのかと。彼は、自分が馬英九の軍事技術密輸事件の証人だから、国民党が政権である限り台湾に入れば殺されてしまうと答えた。
マイケルは毎朝台湾の政治番組を観ている。口には出さないが、国民党政権が野党となり、台湾に帰れる日を待っているのだ。
「分かった」
マイケルが唐突に口を開いた。
「分かったって、何が?」
「中国共産党の狙いだ。日本のネットワークを完全に制御して、データセンターにある日本の情報を全て中国に流出させることだ。早く外事警察に届けてくれ」
「ハァ?また突拍子も無い事言わないでよ。また中央警察で精神病患者扱いされるのイヤよ」
深田は冷たく突き放した。
「このニュースを見ろ」
パソコン画面には、台湾の学生が向日葵を掲げて「ブラックボックス協定反対」と行進する姿が見えた。二国間協定の内容詳細が公開されてないので、反対しているようだ。
「台中サービス貿易協定反対運動がどうかしたの」
台湾と中国の間では、サービス系の仕事を自由に行うことができるという協定を結ぼうとしている。それに台湾学生は反対しているのだ。
「意味が分からないか」
「サービス貿易協定で台湾人の仕事が無くなるから反対してるんでしょ」
「そうじゃない、馬英九が台湾国内のネットワーク構築、ネットでの検索、データセンターの仕事を全て中国に移管する作戦で、ネット上の言論統制から個人情報を全て中国に統制される」
「ちょっと待って、日本の大企業のサーバーって、コスト削減で台湾のデータセンターに移管してるよね」
日本は土地や電気代が高いので、隣国の台湾にデータセンターを置く企業は増えている。特にフリーメールのサービスを行なっている企業は台湾のデータセンターを利用するケースが多い。
「中国の狙いは、台湾のデータセンターにある日本と台湾のデータを全て中国に持って行くことだ」
「そんなの通信回線に負荷が掛かり過ぎて無理でしょう」
「だから、台湾中国間で海底ケーブルを設置した直後の今のタイミングでこの協定を結ぼうとしてるんだ」
そうか、日本と中国の間にも海底ケーブルは敷かれているが、データのやり取りは統制されている。日台間で海底ケーブルを通じた通信は統制されていないので、台中間で自由にデータのやり取りができるようになれば、日本から台湾のデータセンターに向けて流れたデータはそのまま中国に抜けることになる。
「台湾の中華電信の通信事業も全てファーウェイになるし、台湾にあるデータセンターもデータは全て中国のデータセンターに転送される事になる。これがこの協定の目的だ」
「ちょっと待って。日本の携帯基地局の半分はファーウェイ、海底ケーブルもファーウェイ、となると衛星までファーウェイに制御されたら日本は…」
「そうだな。国内でテロが起こったときに政府に伝えようにも携帯は使えないだろうし、衛星電話も使えなくなれば通信手段は無くなる。政府専用回線のセキュリティも怪しいものだな」
中国共産党の対日通信インフラ戦、陸、海、空で陸、海は既に敗戦したも同然だ。
余すところは衛星だが、中国は衛星を撃ち落とす兵器も開発したので、ハッキング出来なければ容赦なく日本の衛星を撃ち落とすだろう。
深田の運命やいかに…そろそろ日本の運命が心配だ。
続く