「深田社長、これ、御社の社印じゃないですよ」
信用金庫の営業が深田に印鑑を突き返した。
「ええ?」
エリの親友が「エリに頼まれました」と言って持って来たうちの社印のはずだった。
「そんなはずは・・・」
「社印の陰影が違うでしょ」
言われてみると確かに陰影が違う。
エリに電話をしても繋がらない。LINEもFacebookも無いので連絡しようも無い。
エリの母親を名乗る女性に電話すると、
「それは貴女の気のせいです」
と言っただけで電話は切られた。
「しょうがない・・・」
深田はエリを数年前に紹介してきた会社の社長に電話をした。
トゥルルル、トゥルルル、
コールは鳴るが繋がらない。
共通の知人にメールで『エリを紹介してくれた社長と最近連絡取ってる?」と聞くと、『萌絵ちゃん、知らないの?彼、失踪したってニュースで出てたわよ』とURLが送られてきた。
クリックすると、確かにエリを紹介した社長が失踪したというニュースが出ていた。
「そんなバカな・・・」
失踪したのがエリだけじゃなくて、紹介してきた人間まで失踪しているなんて、そんなことあり得るだろうか。
胸騒ぎがして、ネット上で『小林英里』と検索してみた。エリは学生起業家として有名だったので、色んなサイトで紹介されてきた。
「ない、ない・・・」
エリの情報が全て綺麗にネット上から消えていた。あんなにたくさんあったエリの写真も消えて、彼女と全く関係の無い写真しか検索で上がらなくなってきた。
スパイシーにエリの昔の会社『有限会社壱歩社長、小林英里』が掲載されているが、それすら全くの別人の写真だ。
「なんでそんなことができる?」
このネット社会で、ネット上から自分の写真を消したいと思っても消せないのに、全てが消えるなんてあり得るんだろうか。
「マイケル!」
深田はマイケルを振り返った。
「エリの写真が全てネット上から消えた」
「ほう、なるほどな。そういうことか」
「どういうことよ」
「内閣情報調査室だ」
「内調って、日本のCIAみたいなとこでしょ?」
「そうだ。ネット上から全ての情報を消すなんて、日本では内調しかできない」
「なに?それってどういうこと?」
「内調の中にダブルスパイがいて、エリを匿っているってことさ。一般人にネット上の全ての自分の情報を消すことは出来ない」
そうだ。マイケルがFBIに保護された時、ネット上のマイケルの写真も情報もほぼ全てが消された。そんなことは国家にしかできない。
「内調って、政府の情報調査局が私たちの敵になったってこと!?」
言われてみれば、内調とつながっている人たち数人から「R社のことを内調は把握してますよ」と言われた。でも、全員が「内調は深田とは会いません」と断ってきた。
「福島瑞穂と内調が繋がってるんだろう」
確かに福島瑞穂は内調に何度となく情報提供するように指示している。
「内調のなかにダブルスパイがいるってこと?」
「もちろん。日本の情報は韓国中国に駄々漏れだからな。そのうち、内調内部の人間は消されるだろう」
なんで?と聞こうとした瞬間に株主たちがぞろぞろとオフィスに入ってきた。そうだ、今日は株主総会だ。
「それではこれより、R社の臨時株主総会を開きます」
株主たちを前に深田は総会を開始した。
「株主の皆様、本日はお忙しいなか急な召集にも関わらずありがとうございまし・・・」
深田は謝辞を述べた。
「議長」
マイケルが深田の言葉を冴えぎる。
「R社は、本日をもって全ての営業活動を停止し、解散することをここに求める」
その場の空気が凍りついた。
解散なんて、聞いてない。
説明しろと求める株主、深田はマイケルの顔をみつめる。
「開発は破壊され、全てが盗まれた。ゲームオーバーだ」
マイケルは冷酷に答えた。
TO BE CONTINUED
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第29回戦 内閣情報調査室
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