エリと連絡が付かなくなって何日もが無為に過ぎた。
食事をしようとすると嗚咽で呑み込めず、ダイエットでは落ちない体重があっという間に3キロ落ちた。
「エリちゃんが裏切る?」
裏切ったかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
彼女の意思かもしれないし、そうじゃなかもしれない。
自分が頼りない人間だから、愛想尽かされただけかもしれない。
それは、自分には分からないことだ。
でも、この一年間これだけ脅迫されたり、なんだかんだあったんだから、もしかしたらエリも脅迫されて拉致されたのかもしれない。
そんな考えが浮かんでマイケルに電話をすると、
「脳みそ足りないな。裏切られただけだ」
「毎日エリとご飯食べてたのよ」
「それがどうした。金を積まれたら、お前とするより豪華な食事が一笑できる」
「信頼関係は?」
「金より安いってことだ」
そう言われて、深田はカッとなって電話を切った。
「なんで、マイケルは人の気持ちわからないの」
深田はスマホの電話帳を端から端までチェックした。こう見えても顔は広い。相談に乗ってくれる人が一人くらいはいるかもしれない。そこに、一人のジャーナリストの名前が見えた。
彼は内閣に情報を提供しているジャーナリストなので、もしかしたら政府に繋がっているかもしれない。
「もしもし?」
「あれ、深田さん」
深田はエリが失踪した件で、どこかに相談できないかを尋ねてみた。
「内閣情報調査室ですね」
彼は応えた。
「なんですか、それ」
「日本に諜報機関はありませんが、いわゆる、CIAのカウンターパーティー的な位置づけです。そこに聞いてあげますよ」
「会えますか?」
彼はさぁ、と言った様子で一度電話を切った。数分後にコールバックがあった。
「深田さん、内調はR社の件を把握しています」
「ええ?うちみたいなベンチャーのこと何で知ってるの?」
「雑誌『外交』と産経新聞でしょ。派手でしたからね」
「じゃあ、会えるんですか?」
「内調は、貴女には会わないと回答しました」
「そりゃそうですよね・・・」
深田はただの民間人だ。政府関係の人間が会うわけもない。
オフィスチェアに座り、大きくのけ反って天井を見た。
「議員に相談すればいいのかも」
そうだ、拉致関係に強い保守系の国会議員に相談すべきだ。
居ても立っても居られなくなって、知り合いの社長に拉致に強い議員を紹介してもらった。
議員秘書が会ってくれて、すぐに警察関係や政府系の調査機関に問い合わせるので少し時間が欲しいという回答があった。
数日ほど連絡なしに過ぎ、ある土曜日の朝、Facebookを見るとエリのアカウントが消えていた。エリのブログも、SNSも彼女への手掛かりがどんどん消えてきている。
深田はすぐに議員秘書に電話をした。
早くしないと、手掛かりが消える。
土曜日、日曜日と電話をしても繋がらず、月曜日に秘書から折り返しがあった。
「土日に電話してくるなんて、お前は常識が無いのか!そんな緊急の事態があるのか!」
第一声は怒鳴り声だった。
「あ、すみません。エリの手掛かりがなくなってきているので・・・」
「知るか!警察でも行け!」
そう言って、電話は切れた。
深田はツーツーとなるスマホを見つめた。
「これが拉致問題の議員秘書だなんて・・・」
確かに拉致されたとは限らない。
エリは私を嫌って連絡してこないだけかもしれないし、本当に失踪したのかもしれない。自称エリの母親が本物かどうかも分からない。
無力感で、スーッと涙が流れた。
TO BE CONTINUED
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第28回戦 嗚咽
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