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Channel:  深田萌絵 公式ブログ 世界経済の裏事情
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第18回戦 追記特許攻防とパテントトロール

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マイケルはパテントトロールに特許を売った金でまた戦いに挑んだ。


パテントトロールは、特許だけを保有している会社で多くの知財系弁護士を抱えている。売上は主に特許収入、トロールと言われる所以は大企業に対して特許侵害訴訟を起こして収入をえているからだ。
一方、マイケルのような個人発明家は自分で訴訟する費用が無い。だから、使わないならパテントトロールに売った方が役立つのだ。面白いのは、侵害されている特許ほど高値が付くシステムだ。

パテントトロールに特許売却で得た資金115万ドル。1億円以上の金だが、チップビジネスを始めるには充分とは言えない資金だ。

それでも、彼は挑んだ。

プライドなんだろうか。

トレーダーも同じだな。
知人のオプショントレーダーは全財産失ったあと、アメックスカードのキャッシングで三百万円引き出してまた億にした。

人間は何をして、どこで生きるのか。
生まれた時から、もしかしたら、決まっているのかもしれない。


第19話 四面楚歌

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「サーキット社(仮名)から納品されなかったってどういうこと!?前金は払ったんでしょ?」
オフィスに戻るなり深田は大声をあげた。
「はい。払ってます。さっき設計が届いたんですけど、全部PDFで納められてデータでは無いんです」
「やられたな。紙ベースで納品されてもシミュレーションも掛けられないし、設計データ流し込みもできないな」
マイケルはソファにもたれかかった。
「元請け会社S社の部長とサーキットを呼んで話し合ってくる」
「無駄だ、深田。これも共産党だ」
マイケルはため息を吐く。
「マイケル、共産党スパイの仕業だって決め付けられないし、やってみないと分からない。私は諦めない」
証拠が無いので、そうだとは言い切れない。
「時間の無駄だから俺は行かない」
「じゃあ、エリちゃんと留守番でもしてて!」
深田はS社にサーキット社を呼び出し、車のエンジンを掛けた。
大田区にあるS社ビルに入り、部長に会議室へと通されると既にサーキット社取締役が座っていた。
「おまえが深田か。うちの設計が紙切れだとか文句言いやがって、名誉毀損で訴えてやる!」
取締役が大声を張り上げて、バシンと机を叩いた。
「いったい設計がPDFで何が悪いんだ?言ってみろよ
「PDFだとデータがシミュレータに流し込めないじゃないですか」
深田はオドオドしながら答えた。開発会社を始めたが、自分は金融が本業で技術は専門外だ。
「それはお前に技術が無いから、紙切れで理解できないんだろうが」
相手は凄んで来た。まるで、まともな企業人だとは思えない。
「いまから技術の者を電話で参加させます」
そう言って、深田はマイケルを電話で呼び出した。
「PDFで基板焼くメーカーがこの世のどこにあるんだ?チップのグレードも相談せずにコピーチップ乗せてどういうつもりなんだ?」
マイケルも興奮してか声が荒くなる。
「ハァ?何言ってんだよ?英語で喋るな。バーカ!それに、うるせーんだよ、この外人!バカなんじゃねーか?訴えたかったら、訴えてみろ!契約書も何もサインしてないんだからな!ハーッハッハ」
そう言ってサーキット社は去っていった。
「あの態度、俺がいなかったらどうなったんだ?」
さすがに元請け会社の部長も呆れ果てた。そりゃそうだ。女だけなら、もっと苛められてたかもしれない。
「ところで、深田社長どうするの?基板開発」
「心当たりが数社あるので、すぐに相談してきます」
そう言って、深田は部長に会釈してビルを出た。駐車場に向かう足が思わず早くなる。
「もしもし。今から私、大手基板メーカーに行くから、エリちゃんもすぐに基板設計会社片っぱしから電話して!!」
深田は、電話しながら車のアクセルを踏み、赤坂へと向かった。
一社だけ心当たりがあった。
金融機関時代に上場企業を何社か訪問したが、その中の一社が基板メーカーなのだ。最初からそこに発注すれば良かったのだが、ちょっと変わった会社なので避けていた。
「しょうがない。会長に頼んでみよう」
思わずネイルを噛んだ。
車を停めて、ネオンの雑踏を通り抜けて、基板メーカーのビルに入る。男が数人入り口で座って酒を飲んでいるが、このビルの一階はバーになっているのだ。
「すみません、会長いますか?」
バーで深田はバーテンに声を掛けた。
「どちら様でしょうか」
すぐさま、礼儀正しい男性が出てきた。
「あの、株女が来たとお伝えください」
当時、証券会社に勤めていたので、株女と呼ばれてたのだ。
スーツ姿の男はインカムで誰かと話すと、「こちらへどうぞ」と二階へ通してくれた。
二階の事務所は7時も過ぎているので、既に真っ暗だった。ただ、男性がリモコンスイッチを入れると、壁が開いて奥からカウンターバーが現れた。
「おお、株女。どーした?」
会長が隠し部屋でバーボンを嗜みながら葉巻を燻らせてる。気のいいおじさんだ。仕事じゃなかったら会わないが、何回会っても怖い。
「会長、サーキットにやられまして。基板作って欲しいんです」
「なんだよ。サーキットは俺の子飼いだよ」
「苛められてるんです!!お願い基板作って!」
「いくら払う?」
「1800!」
「安い!3000くらい出せよ!」
「お願いお願い会長!」
「おまえ!一回もやらしてくれなかったのに、なんで俺がお前に割引しなきゃいけないんだよ!」
男って、すぐこれだ。何かあったら、すぐにヤらせろだ。
「あ、会長。この女ですか?『金持ちか知らないけど、女に使わなかったら貧乏と一緒よ』って言って会長をフった失礼な女は」
オールバックのスーツの男が会長に口を挟んだ。因みに、その都市伝説の女は私ではない。
「もう、会長。お仕事ですよ!」
深田が不貞腐れた。
「深田、EイコールMCの二乗知ってるか?」
会長はチラリと深田を見た。
「なんですか。相対性理論でしょ?」
数学なんて飽き飽きだと深田は答えると、
「おい、おまえら。このバカ女が相対性理論知ってて、なんでお前ら知らないんだよ」
と周囲の幹部を一蹴した。
「おい、株女。その仕事、やってやるよ。その前にサーキットと話付けないとな」
会長は機嫌良く葉巻の煙を吐いた。

オフィスに戻るとエリがニコニコして深田を待っていた。
「萌絵さん、三社に電話しましたが、三社ともやりたいって仰ってくれました」
「ホント?こっちも上場企業に頼んできた」
「これで一安心ですね」
エリは大きな瞳を細めて笑った。
「なんか、酷い目に遭ったけど、軽く飲んで気分転換でもするか」
夜も既に8時半を過ぎている。そういえば、お腹ぺこぺこだ。

乾杯とワイングラスを鳴らして、二人は一口飲んで同時にため息を吐いた。とにかく疲れることが多過ぎる日々だ。
深田は今日起こったことを順にエリに説明した。エリは仕事上の相棒だが、殆どの時間を一緒に過ごすので親友みたいなものだ。
「なんですか、その壁の後ろの隠し部屋が会長室って!ヤ◯じゃないですか?」
エリが声を上げる。
会社の一階にボディガード、インカムで連絡を取るスーツの男、葉巻を燻らせてる会長、突っ込みどころ満載だ。
「一応上場企業で、ヤは上場できないのが証券業界のルールなの」
ルールではそうなっているが、実際適切に運用されているかはナゾだし、そこは深田の責任範囲外だ。
「こっちも三社が明日見積もりくれるって言ってるので、安心です」
そう言いながら、エリはスマホでメールチェックをする。彼女は女性にしては珍しく、プライベートより仕事が大事なタイプなのだ。
「萌絵さん、大変です」
「なに、今日の大変はお終い!」
深田はソーセージをかじる。
「今日、見積もりを依頼した三社が全て取引断ってきました」
「な、なに?」
慌て深田は自分の携帯を見ると会長からメッセージが入っていた。
『サーキットと話した。基板は作らない。裏切られるお前が悪い』
「なんですか、これ…」
エリが深田の携帯をのぞき込む。
「エリちゃん、今日問い合わせた会社に理由を聞いて」
エリはすぐに営業マンの携帯へとかけた。
「あの、今日のお見積もりの件なんですけど…」
「あ、あ!う、うちはね、オタクの仕事なんか受けられない!この業界、会長に逆らったらお終いなんだよ!二度と連絡してくれるなぁ!!ガチャン」
裏返った営業マンの声がスマホから響くのがこちらまで聞こえた。
「萌絵さん…」
「なんなんだ、これ…」
今日、サーキット社から納品がされなかった。他の会社に頼んだ。それだけのことだ。
営業マンが何をそんなに恐れていたのか、こちらには分からない。
「この『裏切られるお前が悪い』って、これこそどういう意味なんでしょう」
不気味がるエリ。
何もかもが既に理解の範疇を超えていた。
会長からのメッセージが、何を意味するのかも。

深田の運命やいかに…
続く

第19話追記 基板メーカーとパチンコ業界の闇

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私たちが使うほぼ全ての電子製品には電子基板が入っている。そう、パソコン開けたら入ってるあの緑の板だ。
あの緑の板には黒い石が乗っている。
それが、チップだ。
チップは単体では使えない。電気を流す必要ががあるからだ。そして、電気は緑の板に付いてる電源から回路に沿って流れていく。

かつて、日本では基板メーカーも栄えていたが、長年の不況で主なお客様はパチンコ屋さんになってしまった。
そう、大企業の子会社になるか、パチンコと繋がりが無ければ、基板屋は食っていけなくなってしまったのだ。そして、パチンコと言えば、朝鮮半島の資金源。中小の基板屋は、パチンコ関連の大手基板メーカーに睨まれると、仕事も無いしブラックに脅されてすくみあがってしまう構図が出来上がっている。

サーキットはちょいと違う。
ある雑誌の記事を読んだら、サーキット社が名指しで記事になっていたのだ。
サーキットに仕事を頼むと、何故か突然中国から先に類似商品が出るという事件が発生しているようだ。

何故か、ここに来て、これまで中国共産党と戦っていると思いきや、中国朝鮮連合軍からの攻撃に遭っていたのだ。
冷静に考えると、アルファアイティ藤井の梶原弁護士は社民党福島みずほの夫の同志なので、最初から解放軍と朝鮮半島は結託していたと考えてもおかしくなかったが、森川紀代弁護士から「梶原弁護士は共産党員だ」と不確かな情報を与えられていたのでそこまで思いつかなかったのだ。

しかし、あまりにも日本国内に敵が多過ぎる。

第20回戦追記② 日本の警察とFBI

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日本の警察には散々相談して第20回戦追記② 日本の警察とFBI

日本の警察には散々相談しているのに、私の物語を読んでる人はその対応に驚かれるかもしれない。

⑴中国スパイを取り締まらないのは、別に警察が悪いとかでもなくて取り締まる法律が無いのが一番の理由です。これを何とかするには、反スパイ法に反対した議員に票を入れず、賛成派に入れることしか国民にはできない。

⑵知的財産や無形資産を盗まれても被害が受理されない件。警察は民事不介入を盾に取りますが、それはやり方によっては間違い。知的財産を盗むと不正競争防止法違反に該当し、刑事罰も発生します。いま、うちがアルファアイティシステムを不正競争防止法違反で訴えているのがそれです。これは民事裁判ですが、刑事告訴して受理されたら刑事罰が伴います。しかし、不正競争防止法違反は立証が難しく、東芝もSKハイニックスがコピーして利用していることを立証するのにハイニックス製品を解析するのに数十億円くらいの莫大な費用が嵩んだと言われてます。
アメリカでは民事裁判でディスカバリーというシステムがありますが、このシステムを使うと原告被告どちらも裁判所の求めに応じて情報開示する義務があります。日本の裁判のように悪意を持つ人間が自分に不利な証拠を隠し難いようにできてます。

⑶警察官になるのに勉強する法律の範囲がFBI捜査官より狭い
知的財産を盗まれても設計図面紙1枚1円の被害ですねと言われた時は倒れそうになりました。
アメリカでは知的財産の価格は参照価格として、類似特許や技術などの市場価格を参照します。それをやらないから、日本では産業スパイが日米技術を盗む格好の場所としてターゲットにされてます。
また日本の警官は、憲法、刑法、刑事訴訟法、警察官職務執行法などを学んでいるようですが、FBI特別捜査官の過半数は弁護士の資格を持っていて犯罪をカバレッジできるので視野が広いです。
日本の警察、所轄の両さんとかと取り扱う犯罪がFBIとはレベルが違うのでしょうが、それでは私の事件は誰に相談したらいいのでしょうか。

そして、この物語、色々と助けを求めてみましたが、中国スパイや中国から利益供与受けてる人間の人数が多いのと、中国スパイなんて冗談やめてみたいな人も多いので、被害は拡大する一方でヘルプレスな状態です。

誰か助けて´д` 

第21回戦 エリ、副社長へ

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ファーウェイ事件、アルファアイティ事件等が相次いだ為、マイケルが社長を降りてエリが副社長になることになった。

中国スパイからの執拗な攻撃からマイケルを守る為、シンガポール人の株主がそう勧めてくれたのだ。

「これで、いつでもエリちゃんと一緒だ!」

深田はエリが役員になったことが嬉しかった。これで、大手取引先の役員との会食で肩書きを理由にエリを外されなくても済むようになった。

「萌絵ちゃん、私、ちょっとS社さんと打ち合わせしてきますね」
そう言って、エリは夕方出掛けた。

しかし、このプロジェクトのリーダーであるS社の役員がファーウェイ社長と友達だったとは、国内におけるファーウェイの浸透力は普通ではない。

S社なんて、どう見ても国内ドメスティックな会社なのにどうやってファーウェイなんかと繋がったんだろう。

S社ウェブサイトを見ると、保利集団と中国で提携したとの発表が出てきた。

「マイケル、S社が中国の会社と提携してる」

「保利集団? 中国最大、人民解放軍の物流会社だぞ」


保利集団は鄧小平が始めた軍事ロジスティクスの会社だ。
物流は軍事の要。中国のように広大な土地では物流を絶たれると軍隊はあっという間に弱体化する。

「それがどうして日本の物流と…」

「どうやら、中国共産党は水面下で日本国内でテロ活動を行う時の為に、日本国内の物流を抑えたようだな。これで、中国共産党は武器でも物資でも何でも日本中のテロリストに届けることができるぞ」

マイケルはやれやれといった調子で、もう遅いからと言って帰っていった。

午後八時。そのS社に行ったエリが戻ってこない。もう四時間だ。

エリの携帯にかける。
「もしもし、萌絵ちゃん?いま、S社の人とご飯食べてるんです」

携帯の向こうからは役員の声も聞こえる。
「エリちゃん、役員の人も一緒じゃないの?」

「あ、そうなんですよ。お祝いしようって突然誘ってくださって」

「あのさ、取引先の役員に会うのに、一言もないの?」

「あ、もう戻りますから」
彼女はそう言って電話を切った。

カツカツ、白く縁取られたフレンチネイルでキーボードを叩く。そろそろ10時前だ。いくら何でも遅すぎるだろう。

「萌絵ちゃん、ただいま」

エリが戻ってきた。いつも通り、白い歯を見せて笑っていた。

「なんで、私がいない時にS社の役員と会ってるの?普通、事前に言うでしょう?」
思わず口調がキツくなる。、

「知らなかったんです。いきなりいらっしゃったから」

いきなり来たにしても、長過ぎるだろう、と深田は言い掛けたがエリの言葉に遮られた。

「疑うなんて、酷くないですか?萌絵さんらしくない」

そう言われて、深田はハッとした。
何年も仕事を支えてくれてるエリを疑うなんて、どうかしている。

深田は一瞬目を落とした。

「エリちゃん、ごめん」
深田はエリの痩せぎすの肩に手を置いた。エリはバシッと深田の背中を叩いて、もえちゃん疲れてるんだから休んで、と答えた。

その日の夜、深田はベッドで天井を見つめた。

ファーウェイに付きまとわれ、早稲田の同級生に訴訟され、企業を装ったインテリヤクザに脅されて精神的に参ってるのはある。

だからと言って、三年支えてくれてる仲間を疑うなんて、自分はどうかしている。

深田は眉間に皺を寄せて瞼を閉じた。
そうだ、きっと疲れてるだけだ。

続く

第21回戦 追記 エリちゃんと私

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エリちゃんが大好きだ。
ミスコンクィーンの孫で、従姉妹はグラビアアイドルと美女家系だ。

それだけでは普通の美女なのだが、エリちゃんは根性があった。

20歳でピースボートで世界一周し、22歳で学生起業し、五年間自分で会社経営しながら元カレを事実上養い、会社が傾いてきた頃にはシャンソンバーでバイトしながら経営をしてきたど根性ガエル系の美女だ。人生の底を見ている感じが、一緒に何かを乗り越えられる人だと感じさせられた。

採用面接の後、私は彼女に断りの電話を入れた。
端的に英語力が足りなかったのだ。

ところが彼女は食い下がった。
給料安くていいから、萌絵ちゃんと一緒に仕事したい、彼女はそう言ったのだ。

感動したのだ。

創業以来、彼女はほぼ休み無しで私を支えてくれ、毎日食事をし、本当の親友ができたと私は感じた。

それが、私から見たエリちゃんだ。

第22回戦 破壊された基板

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「あと一週間か…」
深田は頬杖ついてカレンダーを見つめる。
基板メーカーには散々な目に遭った。
まさか、基板メーカーがパチンコに牛耳られてるなんて思いも寄らなかった。

エリが副社長になり、基板設計会社のSUNMANと国内基板メーカーと交渉して開発を進めていた。

基板メーカーは設計会社のデータを基に部品実装会社と一緒に基板を製造する。アパレルで言えば、デザイナーと服を縫う工場と服の飾りを付ける工場というイメージだ。(あまりいい例えじゃないけど)

「フカダァ!タイヘンだ!」
香港にいるマイケルから国際電話が入った。エリがいつも大変大変言うので、大変という日本語をすっかりマスターしてしまった。

「もう、大変大変言わないで。鬱陶しい」
深田は悪態を付きながら電話に応じる。

「いま、ファンさんが中国科学院からの質問があると言ってきた」
ファンさんはマイケルの中国の友達だ。ベトナム戦争で現地にいたので、見た目は鼻毛ボーボー、枯れ葉剤で歯はボロボロの楽しいおじさんだ。因みに鼻毛と枯れ葉剤は関係無い。

「それで、何が大変だったの?」
「S社に納品した資料、中国科学院が全部持ってる!」
「ハァ!?どういうこと?」
「そういう事だ!お前たちの英語が意味不明で理解できないから、中国科学院の院士ルァンハオがファンさんに頼んできたらしい」
中国共産党必殺技、スパイしてくる割には最後に「これ、なに?」と本人に聞くという中国四千年の必殺技だ。だったら、盗まずに最初から聞けばいいのに、と、深田はいつも思うものだが聞かれても答えないからスパイしにくるから仕方ないとも思い直す。
「S社への納品物が全部向こうにあるってことは、S社が絡んでるんじゃないの?」
深田はS社が解放軍ロジスティクスと組んでいたことを思い出した。
「それだけじゃない。中国科学院のルァンハオにそれを断ったら、『お前たちの基板は既に妨害工作をしたから、大人しく設計情報だけ渡せ』と脅された」
「何それ。基板は妨害工作受けたけど、もう違うところに頼んで来週マイケルが日本に来る頃には出来上がるよ」
深田はこともなげに答えた。
基板は作っている。問題はS社だ。
うちの資料がS社から漏れたとしたら、基板メーカーの情報もS社に漏れてる可能性がある。

「エリちゃん、基板の進捗どうなってる?」
「プリント工業さんからは、予定通りだと聞いてます」

そうか、と答えはしたけど、胸騒ぎがした。基板が出来上がるまで確認のしようがないから、待つしかない。

翌週になって、基板が納品された。 
「萌絵ちゃん、プリント工業さんが基板納品に来てくださいました」
エリがニコニコして、マイケルと深田を呼んだ。
「こちらです」
一枚35万円のFPGAチップが二枚搭載された基板が出てきた。
良かった。ついに基板が出来た。深田が胸をなで下ろすと共にマイケルが口を開いた。
「なんだ、これは!!電源が無いじゃないか!!」
マイケルは怒りで言葉が震えていた。
目線を基板に落とすと、緑の板にあるはずのものが無い。電源だ。
「あ、電源?オタクが電源必要だって言わなかったから付けてません」
電源、電圧と電流の話は初回の打ち合わせで済ませているはずだ。それに、サーバの部品に電源を付けないなんてあり得ない。
「ちょっと待っくださいて。電子基板に電源付けないとか、あり得なくないですか?」
「ええ?でも、オタクが電源必要って言って無かったでしょ」
プリント工業の部長はシラを切った。
「とにかく、納品はしたんだからお金は払ってくださいね」
「そんなわけないだろ。電気も流れない基板の検収をどうやってするんだ」
マイケルは怒った。
当然だ。電源の無いパソコンを渡されて、これにソフトウェア入れてテストしろと言われてるも同然だ。
「それは認識の違いかもしれませんから、戻ってこれまでのやり取りを確認します」
そう言って、プリント工業は帰っていった。

机の上には緑の基板が5枚。
一枚35万円のチップが10枚が無駄になった。
「ルァンハオの言っていた妨害工作って…」
「どうやらこれの事だったらしいな」
マイケルはやれやれとソファに座って脚を組んだ。

続く

第22回戦追記 飴と鞭に飼い慣らされる日本人

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ここまでで、成りすまし日本人(中国人)だけでなく、パチンコ利権系の在日朝鮮人系、ついには日本のトラディショナルな暴力団のフロント企業S社、純日本メーカーのプリント工業までもが中国共産党側に媚びている。

S社の部長は、噂通りもれなく暴走族上がり。S社は中国での運送業務拡大と引き換えに解放軍ロジスティクスと組んだだけでなく、日本での諜報活動にも加担している。

プリント工業は何故加担したか。

実はプリント工業は関連会社が中国にある。

中国に会社を置く外資企業は中国共産党の要請に応じなければ刑罰が待っている。その代わり、協力すれば経済的メリットが得られる仕組みだ。

しかし、協力者が多過ぎる。中国得意の人海戦術に翻弄されているのだ。



第23回戦 ベンチャーキャピタリスト

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「そろそろファンドレイズ(資金調達)するか」
マイケルがそう切り出した。
この会社を立ち上げる時、深田がシードマネーを準備し、エンジェルからファーストステージの資金調達を行なった。

「この次はベンチャーキャピタルだな…」

深田がベンチャーキャピタルを避けてきたのは、ベンチャーキャピタルは企業を潰すケースがかなり多いからだ。

銀行系は融資並みに資産を要求するし、企業系VCからの出資は独立性が保てなくなる。保険系は不要になった株を暴力団に転売したりするという結末になることもある。

深田にとっては、投資詐欺よりも投資する詐欺師の方が怖いのだ。投資詐欺は金を取るだけだけど、投資する詐欺師は会社を乗っ取り金も事業も技術も社員も盗んでいく。しかも、弁護士も付けたうえで法律スレスレに騙してくるので訴訟も大変だ。

「それに、技術が理解できるキャピタリストが殆どいないんだよね」

以前に政策投資銀行のビジネスコンテストに出てファイナリストまで残ったが落選した。理由はディスプレー製品が無いからという勘違い甚だしいものだった。うちはチップ設計だと何度も説明したのにと、コンテスト会場で揉めて、最後に舞台裏で政策投資銀行の社長が「審査員が技術音痴ですみませんでした」とお詫びまでしてくれたのだ。

別に政策投資銀行だけが技術音痴な訳ではない。
今の投資トレンドは技術よりもサービスが主流なので、難しいハードウェア設計に投資なんかはしないのだ。

ベンチャーキャピタル選びは難しいのだ。

「もえちゃん、Googleに会社を売ったロボット技術の加藤さんがファンドを立ち上げ他みたいです」  

「え、シャフトの加藤さんが!?」

シャフトといえば、ロボット技術で有名なベンチャーで会社をGoogleに売却して、一躍時の人になった。

「うちの技術、ロボットアイに組み込めるから会いたいな」

そう思い深田は246キャピタルにメールをしたが返信は無かった。

ま、仕方ない。
そう思いながら、金融機関時代の先輩が六本木ヒルズで開くランチ会に参加してシャンパンで乾杯をした。

「カンパーイ!!」

久々にシャンパングラスを握ったと気が付いた。華やかな外資金融から、地味なモノづくりへと自分は変わったのだ。いや、意外と性にあってるかもしれない、なんてことを考えていた。

「深田ちゃん、何を深刻な顔してるの?オトコに困ってるんでしょう?」

金融機関史上最も美しいと呼ばれた先輩がニコニコ笑っている。

「あ、イヤイヤ。オトコに困ってるのも事実ですが、ベンチャーキャピタル探しにも困ってるんですよ」

深田は弁明した。

「あら、その2つの課題を同時に解決できるゲストが来るわよ」

先輩はプププと含み笑いをする。

「あ、お待たせしました」

小洒落たスーツにサングラスを掛けた30代の男が現れる。端正な顔立ちからは、ストリートスマートな雰囲気が漂ってる。

「こちら、深田ちゃんよ。自己紹介宜しく」

先輩がそう言うと男は口を開いた。

「246キャピタルのコ・ファウンダー(共同創始者)のIです」

「ええ!?」

深田は驚きで声を上げた。加藤さんでは無かったが、その共同創始者が現れた。

昔、母さんに言われた事がある。
『お前の人生って良くできてるわね。必要な人が自動的にタイミング良く現れて』


深田の運命やいかに…
続く


第23回戦追記 ベンチャーキャピタルの罠

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起業した時に最も起業家が嵌る罠はベンチャーキャピタルだ。

まともなベンチャーキャピタルは、かなり少ないのだ。

大企業系から投資を受けると、その系列でしか仕事ができないなどの制約を受けるので企業系の投資を受けるとサラリーマン状態に逆戻りだ。
 
系列がたくさんある大企業はまあまだマシで。

学生起業家に投資するベンチャー企業があるけど、数百万円の投資で株の過半数を取られて数年ほどただ働きした果てに根を上げてそこのサラリーマンになるという仕組みになっている。

最悪なのは、ベンチャーキャピタル自身がブラックで出資を受けると上場時の反社会組織審査でVCからの出資を受けたことを理由に弾かれるというケースだ。

あとはベンチャーキャピタル風のハイエナファンド。
「投資するから資金繰り表を出せ」
と言って資金繰りを見て倒産するまで出資せずに、倒産後「助けてあげるよ」と二束三文で会社を全部買って海外ファンドに高額で売り付けるというスキームだ。

金融業界におけるストリートスマート、頭の良さは少ない投資でどれだけ稼ぐかということに尽きるのだ。

さて、本物投資家と偽物投資家の見分け方だ。

本物投資家は株価を交渉しない。
本物投資家はパーセンテージに拘らない。
本物投資家は大量の資料を要求しない。
本物投資家は一回のミーティングで投資を決める。

(だいたい、今までの経験だとそんな感じ)

何度も会わないと、もっと資料をくれないとわからないとかいうのは、投資家ではなくて何かを企んでいる人間なのだ。

第24回戦 ベンチャーキャピタリスト②

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流暢なLAアクセントが利いた英語。
光沢感のあるイタリア製のスーツに程よく焼けた肌が輝いている。それが246のキャピタリスト。どこからどう見てもかっこいいのだ。

「御社への投資には、条件があります」

「なんですか?」

深田だけでなく、マイケルとエリにも緊張が走った。

「深田さんとエリさんを取締役から降ろすこと。もう少し見栄えのする経営陣をハーバードから僕が引っ張ってきますから」

キャピタリストは眼光鋭く応えた。

エリは普段のニコニコ顔がサッと曇った。それはそうだ。資料もたくさん作ってきたし、自分は副社長になったんだと周囲にも伝えて頑張ってきた。キャリアは彼女の誇りなのだ。

逆に、深田は、降りろと言われて、ショックよりも何処と無く肩の荷が下りたような気がした。原発事故や津波被害の為にと思って、この技術を日本で展開しようとしたけど何年もスパイやらインテリヤクザやらから厭がらせをされて正直参っていた。若くしてまぁまぁ稼いだ。それでいい気になって、自分は何でもできると勘違いしてこの会社を始めたのは身の程知らずだったのではと感じていた。

二人はお互い異なる気持ちでマイケルを振り返った。

「取締役?エリは降ろしてもいいよ。深田はダメだ」

その場にいる全員がマイケルの言葉に凍り付いた。キャピタリストも想定外のマイケルの反応に言葉を失った。

深田はチラリとエリを見た。エリが副社長になってから、前に出過ぎないように気を使ってきた。なのに、マイケルは、深田が一番言って欲しくない台詞を言ってしまったのだ。

翌る日、エリは会社に来なかった。
数人しかいない会社は、一人いないだけでガランとする。

「マイケル…なんであんな事言ったの?」
深田は、イヤホンで音楽を聴いていたマイケルを突いて問いただした。

「そう思い付いたからだ」
マイケルはイヤホンを少しズラして、こともなげに応えた。『三年間一度も休んだ事のないエリがいないのに何とも感じないのか?』深田はカッと来る。

「エリは、この会社を愛してるのよ!会社の為にあんなに頑張ってるのよ!どうしてそれが分からないの?マイケルは人間の気持ち、分からないの?」

「会社の為?ハハ、それはどうかな。お前は人間の気持ちも考えも分かっていない」

マイケルはそれだけ応えるとイヤホンをまた付けて、設計の世界に没頭した。

数日後、深田は書類を持って246キャピタルに向かった。

「おはようございます」

見慣れない妙に若い女性が深田を迎えた。

「あれ?」
「あ、すみません。インターンなんです」
「そうなんですか。お若いですね」
「20歳です」
色白の肌に大きな瞳、一瞬タレント事務所に所属してるのかと思うくらいの美人だった。
「どちらの大学ですか?」
「ふふ。しょうもない大学なので言えません」
ん、と深田は思った。インターンなのに大学名を隠すだろうか。
「へー、どこに住んでるの?」
「歩いて40分くらいのとこです」
彼女は愛想よく笑った。
深田は奇妙な感覚を感じながら、ミーティングルームの席に座った。

「深田さん、どうも」
イケメンキャピタリストが現れた。
「投資の条件に、売上の1割をうちに払うという契約書にサインして欲しいんです」
「ええ?」
株式投資にリターンを保証するのは、明らかな金融商品取引法違反だ。
「すみません、金商法…」
「あ、もちろんです。金商法には引っかかりたくないので、契約書は投資契約と顧問契約の二枚に分けます」
それがストリートスマートだと言わんばかりにキャピタリストは笑った。
キャピタリストの隣に例のインターンがチョコンと座っていた。

ふと見ると、彼女が服の上からキャピタリストの股間を触っていた。
「あ、深田さん。この子?いいでしょ。清純で。すごく癒されるんです」
彼女は深田を上目遣いで見つめる。いかにも「深田さんもどう?」と言わんばかりの挑発的な瞳に口元には笑みを浮かべている。

「あ、すみません。今日は忙しいので、こんなもんで」
深田は慌てて荷物を片付けて、トンズラこいた。
『ヤバい。かなり斜め上からの攻撃だ』
あの20歳の美人は、中国からのハニートラップだ。間違いない。
大学名も応えない、歩いて40分くらいのとこに住んでるとかいう謎の女がまともな女の訳が無い。

「マイケル!!キャピタリストのとこに、ハニートラップがいて!股間触ってた!!どうもそれは清純らしい!」
深田はオフィスに戻るなり、英語でそう叫んだ。

「ハニートラップか。俺の行くとこ行くとこに、ハニートラップやらジゴロトラップやら現れて、世の中忙しいな」
マイケルはパソコンモニターを見つめたまま、深田を振り返りもせずに応えた。

深田はエリに電話をした。
「エリちゃん、投資断った。エリちゃんがいないと会社が回らない。良かったら、また来てくれないかな?」
電話の向こうでエリがクスクスと笑う声が聞こえてきた。

「いいですよ」

エリの言葉に深田は飛び上がった。
やっぱり親友だ。
エリちゃんが、親友で、自分には必要なのだ。

ニコニコして電話を切った深田を見て、マイケルはやれやれと言った風に溜め息を吐いた。

続く

第24回戦追記 246キャピタルってなんだった

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246キャピタルと揉めている頃、見知らぬ電話番号から電話が何度か鳴った。

ところが折り返すと電車の音がして、間違い電話だと悟る。これを何度か繰り返して、ある時相手と電話が繋がったのだ。

「あの~何度もお電話頂いて~」

「ごめんなさい、深田さん。間違い!」

「え?私の事知ってるの?」

と聞いてみたら、私が勤めていた金融機関の法務部の人間だった。

「いやー、久しぶりー!」
とお互いの近況を報告しあってみるととんでもないことが分かったのだ。

彼はシャフトの加藤崇さんと仕事していたのだ。

「じゃあ、246キャピタルの人知ってるの?」

「知ってるも何も、加藤さんダシにしてお金集めようとしてただけだよ。それに加藤さんが気が付いて、辞めるって言ったら加藤さんの弁護士まであいつらに一晩監禁されて大変だったんだから!」

「か、か、監禁!?」

「そ!ということで、246キャピタルと加藤さん、今はなーんにも関係無いよ!だから、深田さんも気を付けてね!この業界、ヤバいからね~」

と彼は教えてくれた。

246キャピタルとの出会いも偶然だが、その246キャピタルの本性を知る電話も偶然。

人生は不思議、不思議過ぎる。

第25回戦 口論

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「やれやれ」
マイケルがシリコンバレーに戻り、深田は両手を天井へ伸ばした。普通の仕事は苦にならないが、訳の分からないことが多すぎて最近は肩が凝るのだ。

デスクの上にある電源が抜かれた電子基板を見る。

「電気が通らない基板作ってプリント工業は何がやりたかったんだろうね」

「もえちゃん、でも、私はプリント工業さんに基板に電源入れてってお願いしなかった気がするんです」

誰に話しかけるわけでもなかったが、エリが応えた。

「は?何言ってるの?電気屋でパソコン買って、電源付いてなかったらおかしいでしょ。店員に文句言ったら『パソコン欲しいとは聞いたけど、パソコンに電気通せなんて言って無いでしょ』って言われてるようなもんでしょ」

「でも、全部プリント工業さんの責任にするんですか?」

「エリちゃん、うちはお金払ってるんだよ。基板メーカーにいくら払ってきたと思うの?それなのに納品してきた会社一社も無いんだよ」

エリは基板メーカーとの担当窓口だったので、相手の担当とはかなり仲が良かった。庇いたくなる気持ちは分かるが、損害は大き過ぎる。株主に対する責任があるのだ。

「深田さん、深田さんはメーカーさんにとっては良いお客さんじゃないんです。だから、お金払っても納品して貰えないのは仕方ないんです」

「は?」

一瞬、彼女の言っている言葉の意味が分からなかった。

白いデスクの向こうにいるエリはいつも通りのポーカーフェイスで、黙ってこちらを見ている。

「エリちゃんは取締役で経営側なのに、いつまで経っても製品の一つもできないままでそれをどうやって株主に説明するの?経営陣として説明責任果たせるの?」

エリは応えなかった。

「経営者として恥ずかしくないの?私は恥ずかしいわ!」

垂れ目の大きな瞳が瞬きもせずにこちらを見ている。

「そうですか。深田さんの気持ちが分かって良かったです」

エリはそう言い残して、「今日はもう遅いので」と言ってオフィスを出た。時計は夜の九時。確かに遅い。

「なんだよ。私の気持ちが分かって良かったとか」

そこじゃないだろ、と思いながら夜道をトボトボ歩き、気分転換に一人で近くのワインバーに入った。
「シャンパンください」

「あれ、今日はお一人なんですね」

白シャツに黒ベストのマスターがカウンター越しにシャンパンを指し出した。お気に入りのマッシュルームサラダをつつく。
三年間、仕事帰りにエリと一杯飲むのが日課だった。合言葉は「お腹空いた」だ。

「うん、そうだね」

思わず涙が零れたが、マスターはそっと背中を向けてグラスを拭いた。

続く

第26回戦 新聞一面に

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ジリリリ、ジリリリ

黒電話音に設定したスマホが鳴る。

「うーん・・・」

目がなかなか開かない。たぶん、昨日なかなか寝付けなかったせいだ。
うっすらと目を開けてスマホを見ると、『エリ』と表示されていた。

良かった。これで仲直りだ。

「エリちゃん、おはよう」

「もえちゃん、大変です!」

電話口でエリが声を上げる。

「だから、何が大変なんだよ!」

ほぼ、毎日のようにエリかマイケルが大変大変と言い出すので、そろそろ苛ついてくる。

「FPGAが盗まれそうになった事件、産経の一面になりました!!」

「ハァ!?産経新聞!?」

「はい!一面です!」

「ていうか、エリちゃん新聞読んでたの?」

思わず深田は突っ込んだ。

「いえ、知人から連絡があって、産経新聞一面のR社ってうちのことじゃ
ないかって聞かれて見てみたんです」

「どうだったの?」

「うちです。間違いなく・・・」

その言葉を聞いて、深田は髪も梳かさずコンビニへと走った。

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新聞には、盗まれそうになったFPGA7000万円相当を中国に渡る前に水際で回収したと書かれていた。R社のK氏。マイケルのことだ。

『狙われた情報通信』と冠された記事には、『上』と書かれていた。明日は『下』となるのか。

翌朝はより衝撃的な記事だった。

うちの3D技術で中国人民解放軍と直結している中国科学院が衛星搭載型のレーザー兵器の開発を行なおうとしていることが明らかになった。

「解放軍のルアンハオ・・・」

聞いたことのある名前、そう、私とエリが訳した英語の意味が分からないと問い合わせてきた人物だ。ただし、問い合わせてきたときは中国科学院だと名乗っていたはずだ。
10年前、マイケルがJSF(統合打撃戦闘機)の開発計画に加わってから、解放軍によってJSFの設計は盗まれた。

当時、マイケルは中国科学院の顧問として、年に数回中国へと渡っていた。無論、米国政府の許可は得ていた。

JSF事件が発覚した後、米国政府の調査で中国科学院でマイケルが出会った40人の院士は全部二つ星以上の解放軍軍人だったことが発覚した。
そして、今、また中国科学院が裏で動き始めている。

「もえちゃん、こんなのニュースになっちゃっていいんですかね」

「そうだな、どうなんだろう」
また、S社の部長が怒鳴り込みに来るかもしれない。

オフィスの電話は問い合わせの電話が鳴り続けた。

R社とは、うちのことなのかと。
深田はエリを車に乗せて産経新聞へと向かった。
「エリちゃん、待ってて」

産経新聞社へと入り、深田は記者を探した。
この記事のこと、もっと知りたい。

担当記者のうちの一人が現れて、記事の情報源については答えられないと告げられた。

「この事件、どうなるんですか?」

「県警が動き始めた」

記者はそれだけ応えた。

「県警!?」
遂に警察が動いた?
この一年間、苦しみぬいた。何度警察に通っても、被害届は一度たりとて受理されなかったのだ。
それが、記事になった瞬間から警察は動き始めたのだ。

深田は走って車まで戻り、エリに声を掛けた。
「エリちゃん!県警が動き始めたって。この一年間の苦しみからようやく解放される!」

深田は少し興奮気味だった。
この不気味な事件の連続、相談しても気のせいだとバカにされてきたけど、もう気のせいだとは言われない。

「よかったですね」

エリは瞬きもせずに答えた。
言葉とは裏腹に顔はこわばり、声は冷たかった。

「もえちゃん、なんだか風邪で熱があるみたい。今日は早退してもいいで
すか?」

エリが力なく答えた。

「そうだね、エリちゃん働き過ぎだよ。休んだほうがいい」

深田はエリを自宅まで車で送り届けた。

すみません、それじゃ、と言ってエリはマンションへと消えていった。

その後ろ姿が、彼女を見た最後の瞬間になるとは夢にも思わなかった。

TO BE CONTINUED

第27回戦 何もかも消えて

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「深田社長!ここにハンコ!お願いします」
取引銀行から頼まれて、深田は金庫を開けた。

「あれ?」
入っているはずの印鑑と通帳が無い。そうだ、エリが契約書作るとかで印鑑通帳を持って帰ってしまっているのだ。

「すみません、副社長に預けてて風邪で休んでるんですよ」
「そうですか、それじゃあ次回」
そう言って銀行員は帰って行った。

エリが休んで3日。

電話は通じず、LINEで朝一通メッセージが来るだけだ。深田はLINEで「病気は分かりますが、印鑑と通帳をエリの家に取りに行ってもいいですか?仕事になりません」と連絡すると、「ご迷惑かけてすみません。親友に持って行かせます」と返信が来た。

「おい、友達に持って行かせるってなんだよ。同好会じゃないんだぞ…」
深田は苛立ちを覚えたが、自分の感情より実務を遂行する方が大事だと思って了承した。

しばらくして、エリの親友が会社のパソコンと印鑑通帳を持って来た。

「深田さん、すみません。受領書頂いていいですか?」
と言われて違和感を覚えた。
エリはこれまで取引先とのやり取りで受領書を作ったことが無い。それで散々揉めてきたのだ。そんな人間が会社の備品返すのにここで受領書を要求するのかと思うと、正直気分は良くなかったが、実務優先なのでとりあえずサインをした。

「なんか、おかしな話だよな…」
深田が首を傾げてると、電話がかかってきた。エリの携帯だ。
「エリちゃん!どうなってるの?」
「エリの母です」
「え、お母さん?」
深田は目が点になった。
「エリが深田さんに書類を渡したいので至急お会いしたいのですけど、いつ頃ご都合宜しいですか?」
「え?書類?今日は一日中オフィスにいますけど…」
「それではこれから伺います」
と言って電話は切れた。
いったい何の書類だよと思いながら深田は椅子にもたれかかった。

5時頃、エリの母親がやってきた。
「エリの辞表です」
「え、辞表?」
「エリは鬱病で衰弱しきっていて、歩くこともできません。お医者様にもそう言われてます。受け取って受領印を押してください」
「今日は無理ですよ」
「じゃあ、辞めたという証明書を発行してください!!」
会社辞めた証明書ってなんだ?と深田は首を傾げた。
「お母さん、ちょっと待ってください。私だけで決められません。株主もいるんですから」
「じゃあ、今すぐ株主全員に電話してください」
さすかに面食らった。
会社の副社長やってる人間がお母さんに辞表持って来させて、株主全員に電話しろというのである。
「お母さん、できるだけ早めに株主に連絡しますから、今日はお引き取り願えませんか?」
「分かりました。早めに連絡ください」
そう言って、母親が帰ろうとした時にそうだと思った。
「お母さん、エリちゃんの病気、長引きそうでしたら、良かったら彼女の私物を持って帰ってあげたらどうですか?」
そう言って、深田はエリのデスクを開けた。
すると、あるはずの化粧ポーチやハンドクリームが無い。
ロッカーを開けても空っぽだ。
「おかしいな、何にも無いみたいですね」
「そうですか、それでは失礼します」
そう言って、母親は帰っていった。

帰宅後、ワインを飲みながら、深田は思いふけった。
「なんで私物ないんだ?」
ハッとした。

飲みかけのグラスを置いて部屋から駆け出し、夜道でタクシーを見つけて飛び乗った。

ガチャガチャとオフィスのドアを開けて、開発中のシステムのケースのネジを外した。
「ない…」
硬く閉められたケースのネジを外して、二つ目、三つ目と開けていく。
ハードウェアケースの中身にあるはずの開発中チップとハードディスクドライブまでも残っていなかった。
わざわざネジで締めてるケースから取り出していくなんて…

何千万と開発費をかけたものがアッサリと副社長に持ち逃げされた。盗んだ本人が消えたとなれば、株主から訴えられるのは自分だ。

その場に座り込んで、深田は電話を掛けた。
「マイケル…開発中のチップが盗まれた」

「警察に届けろ」

「警察…」
深田は戸惑った。少し前まで毎日一緒居た親友を警察に届けるのかと。
「そして、緊急株主総会を召集しろ!お前の処分をその時に決める」
そう言って電話は切れた。

重い足取りで深田は中央警察に赴き被害届けを出した。これまでのように、被害届けの受理を断られたらとも思ったが、今回はあっさりと被害届けが受理された。

一年間、何度被害届けを出そうとしても警察には断られ続けた。巧妙な犯罪者達は殆ど証拠を残さなかったからだ。

「エリちゃん…」
もし、この事件が表沙汰になれば、青幇、中共国安がスケープゴートに使うのは証拠を残した彼女だ。

涙が止まらなかった。
ベッドに横たわって、ただ天井を見ていた。

神様、人間は、なんて残酷なゲームをするんですか。

TO BE CONTINUED

第28回戦 嗚咽

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エリと連絡が付かなくなって何日もが無為に過ぎた。
食事をしようとすると嗚咽で呑み込めず、ダイエットでは落ちない体重があっという間に3キロ落ちた。

「エリちゃんが裏切る?」

裏切ったかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
彼女の意思かもしれないし、そうじゃなかもしれない。
自分が頼りない人間だから、愛想尽かされただけかもしれない。
それは、自分には分からないことだ。

でも、この一年間これだけ脅迫されたり、なんだかんだあったんだから、もしかしたらエリも脅迫されて拉致されたのかもしれない。
そんな考えが浮かんでマイケルに電話をすると、

「脳みそ足りないな。裏切られただけだ」

「毎日エリとご飯食べてたのよ」

「それがどうした。金を積まれたら、お前とするより豪華な食事が一笑できる」

「信頼関係は?」

「金より安いってことだ」

そう言われて、深田はカッとなって電話を切った。

「なんで、マイケルは人の気持ちわからないの」
深田はスマホの電話帳を端から端までチェックした。こう見えても顔は広い。相談に乗ってくれる人が一人くらいはいるかもしれない。そこに、一人のジャーナリストの名前が見えた。

彼は内閣に情報を提供しているジャーナリストなので、もしかしたら政府に繋がっているかもしれない。

「もしもし?」

「あれ、深田さん」

深田はエリが失踪した件で、どこかに相談できないかを尋ねてみた。

「内閣情報調査室ですね」
彼は応えた。

「なんですか、それ」

「日本に諜報機関はありませんが、いわゆる、CIAのカウンターパーティー的な位置づけです。そこに聞いてあげますよ」

「会えますか?」

彼はさぁ、と言った様子で一度電話を切った。数分後にコールバックがあった。
「深田さん、内調はR社の件を把握しています」

「ええ?うちみたいなベンチャーのこと何で知ってるの?」

「雑誌『外交』と産経新聞でしょ。派手でしたからね」

「じゃあ、会えるんですか?」

「内調は、貴女には会わないと回答しました」

「そりゃそうですよね・・・」

深田はただの民間人だ。政府関係の人間が会うわけもない。

オフィスチェアに座り、大きくのけ反って天井を見た。

「議員に相談すればいいのかも」
そうだ、拉致関係に強い保守系の国会議員に相談すべきだ。
居ても立っても居られなくなって、知り合いの社長に拉致に強い議員を紹介してもらった。

議員秘書が会ってくれて、すぐに警察関係や政府系の調査機関に問い合わせるので少し時間が欲しいという回答があった。

数日ほど連絡なしに過ぎ、ある土曜日の朝、Facebookを見るとエリのアカウントが消えていた。エリのブログも、SNSも彼女への手掛かりがどんどん消えてきている。

深田はすぐに議員秘書に電話をした。
早くしないと、手掛かりが消える。

土曜日、日曜日と電話をしても繋がらず、月曜日に秘書から折り返しがあった。

「土日に電話してくるなんて、お前は常識が無いのか!そんな緊急の事態があるのか!」

第一声は怒鳴り声だった。

「あ、すみません。エリの手掛かりがなくなってきているので・・・」

「知るか!警察でも行け!」

そう言って、電話は切れた。

深田はツーツーとなるスマホを見つめた。

「これが拉致問題の議員秘書だなんて・・・」

確かに拉致されたとは限らない。
エリは私を嫌って連絡してこないだけかもしれないし、本当に失踪したのかもしれない。自称エリの母親が本物かどうかも分からない。

無力感で、スーッと涙が流れた。


TO BE CONTINUED

第29回戦 内閣情報調査室

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「深田社長、これ、御社の社印じゃないですよ」
信用金庫の営業が深田に印鑑を突き返した。

「ええ?」
エリの親友が「エリに頼まれました」と言って持って来たうちの社印のはずだった。
「そんなはずは・・・」
「社印の陰影が違うでしょ」
言われてみると確かに陰影が違う。

エリに電話をしても繋がらない。LINEもFacebookも無いので連絡しようも無い。
エリの母親を名乗る女性に電話すると、
「それは貴女の気のせいです」
と言っただけで電話は切られた。

「しょうがない・・・」
深田はエリを数年前に紹介してきた会社の社長に電話をした。

トゥルルル、トゥルルル、

コールは鳴るが繋がらない。

共通の知人にメールで『エリを紹介してくれた社長と最近連絡取ってる?」と聞くと、『萌絵ちゃん、知らないの?彼、失踪したってニュースで出てたわよ』とURLが送られてきた。

クリックすると、確かにエリを紹介した社長が失踪したというニュースが出ていた。
「そんなバカな・・・」
失踪したのがエリだけじゃなくて、紹介してきた人間まで失踪しているなんて、そんなことあり得るだろうか。

胸騒ぎがして、ネット上で『小林英里』と検索してみた。エリは学生起業家として有名だったので、色んなサイトで紹介されてきた。

「ない、ない・・・」

エリの情報が全て綺麗にネット上から消えていた。あんなにたくさんあったエリの写真も消えて、彼女と全く関係の無い写真しか検索で上がらなくなってきた。

スパイシーにエリの昔の会社『有限会社壱歩社長、小林英里』が掲載されているが、それすら全くの別人の写真だ。


「なんでそんなことができる?」
このネット社会で、ネット上から自分の写真を消したいと思っても消せないのに、全てが消えるなんてあり得るんだろうか。

「マイケル!」

深田はマイケルを振り返った。

「エリの写真が全てネット上から消えた」

「ほう、なるほどな。そういうことか」

「どういうことよ」

「内閣情報調査室だ」

「内調って、日本のCIAみたいなとこでしょ?」

「そうだ。ネット上から全ての情報を消すなんて、日本では内調しかできない」

「なに?それってどういうこと?」

「内調の中にダブルスパイがいて、エリを匿っているってことさ。一般人にネット上の全ての自分の情報を消すことは出来ない」

そうだ。マイケルがFBIに保護された時、ネット上のマイケルの写真も情報もほぼ全てが消された。そんなことは国家にしかできない。

「内調って、政府の情報調査局が私たちの敵になったってこと!?」

言われてみれば、内調とつながっている人たち数人から「R社のことを内調は把握してますよ」と言われた。でも、全員が「内調は深田とは会いません」と断ってきた。

「福島瑞穂と内調が繋がってるんだろう」
確かに福島瑞穂は内調に何度となく情報提供するように指示している。

「内調のなかにダブルスパイがいるってこと?」

「もちろん。日本の情報は韓国中国に駄々漏れだからな。そのうち、内調内部の人間は消されるだろう」

なんで?と聞こうとした瞬間に株主たちがぞろぞろとオフィスに入ってきた。そうだ、今日は株主総会だ。

「それではこれより、R社の臨時株主総会を開きます」

株主たちを前に深田は総会を開始した。

「株主の皆様、本日はお忙しいなか急な召集にも関わらずありがとうございまし・・・」

深田は謝辞を述べた。

「議長」

マイケルが深田の言葉を冴えぎる。

「R社は、本日をもって全ての営業活動を停止し、解散することをここに求める」

その場の空気が凍りついた。

解散なんて、聞いてない。

説明しろと求める株主、深田はマイケルの顔をみつめる。

「開発は破壊され、全てが盗まれた。ゲームオーバーだ」

マイケルは冷酷に答えた。


TO BE CONTINUED

第29回戦追記 内調について

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①消された内調の諜報員の謎

先日、内調の受託をしているというジャーナリストに一年振りに電話をして、偽装裁判について相談しようとした。

そしたら、ぷちキレられました。

仕方ないので電話を切ったけど、なんでキレられたのかよく分からないです。

やっぱり内調は福島瑞穂の工作で中国よりなのか。

内調の内部にエリとアルファアイティのミサイル開発計画を幇助する人物がやはりいるのか。
ここ数年、内調の人間が不審死しまくってますが、ダブルスパイが殺されてるのか、ダブルスパイに気が付いて報告しようとした真面目な人が殺されてるのかはよく分かりません。

まあ、こんだけ死んでるなら、タッチしないに限りますね。

② 内調を超えるテロ情報収集組織

安倍総理は国際テロ情報収集組織を発足する。

ただし、人材が内調や公安から来るのが心配だ。

情報収集組織に人を採用する際にはその人物の情報を収集しなければならない。まずは預金口座、家族や親戚の預金口座、4代前まで家系が遡れるか、幼い頃に入れ替わった成り済まし日本人ではないか、等の基本情報が必要な気がする。

内調と公安の内部では日本の為に働いている人と中国・朝鮮の為に働いている人がいる。

国際的な情報収集する前にまずはその辺から情報収集したほうがいいような気がする。

ミステリー小説ではないが。

「犯人は、このなかにいる」

が正解ではないだろうか。

第30回戦 バカで愚かな女

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目が覚めると白い天井が見えた。

顔に違和感を感じる。

ぺリぺリと剥がすと、白い紙が顔に貼りついていた。
枕元はティッシュだらけだ。

そうだ、全て失ったのだ。

4年間、自分の全ての時間と全財産を掛けて打ち込んだ会社が昨日終わった。会社を立ち上げてから、エリの給料を優先して払ってきたので自分の給料は後回しにしてきた。
前の会社を辞めてから6年間、自分は殆ど給料を取らずに貯金で生活してきた。証券口座の資金も注ぎ込んだので、すっからかんだ。

「はは、やるね。エリちゃん。ぐうの音も出ないよ」

都内の高級タワーマンションの一室。

無収入の今では家賃が高過ぎるだろう。

あぜ道の多い田舎で育った自分には、不似合いだなと思わず笑った。

「なんで、こんなことになったんだろ」

低学歴の私が、なんでこんなところに住んでるのだ。
そもそも私は、毎日意地悪されては泣いている気が弱い女の子だった。

母さんは、子供の頃から「萌絵ちゃんがやりたいことは何でもできるのよ」って言ってたのに、夢は何一つ叶わないまま、家族と離れた療養所で二ヵ月過ごし、誰一人訪れないままに成人した。

そこを出たら、全ての時間を自分のやりたい事の為、夢を叶える為に使うんだ。そう誓った。
家に戻ると父は失踪していた。

倒産して全財産を失ったのだ。

無我夢中で就職して、田舎の小さな町工場で事務員になった。
普通のOLだ。

仕事はつまらなかった。

お金も無かった。

それが不満だった。

母さんに夢が叶わないと文句を言った。

「努力すれば夢なんていくらでも叶うのよ」

それが彼女の答えだ。

お金の為に投資を始めた。
転職したくても、スキルが無かったので英語とパソコンの勉強を始めた。
皆に「おまえみたいなバカには無理」と嘲笑われた。

馬鹿にされたくなくて頑張った。

頑張ったら、商社に転職できた。

ところが転職をしても、転職をしても待遇は良くならない現実に絶望した。学歴が無いと笑われて、バカにされて、非正規雇用を転々としたのだ。

だから、努力して大学に入り直した。

学費は無かった。

単位を取りながら五つの仕事を掛け持ちした。

リサーチの仕事で株の知識を深めた。

夫が勉強を教えてくれていたので、少し賢くなった。
最初は褒めてくれてた夫も、いつかは褒めてくれなくなった。
夫が外資金融に勤めていたので憧れて、外資金融に自分も入ることにしたのに夫は反対だった。
結果的に離婚になった。
彼と暮らしていたタワーマンションを出る時、「いつかは自分のお金で高級タワーに住む」と誓った。

そのタワーマンションに引っ越す時が来た。

同じタイミングで金融機関も辞めた。

就職はしなかった。

職を転々とした自分を戒めるためだった。

また、トレーダーに戻った。

生活は出来た。

ただ、虚しかった。

その時、コンサルやってくれと3社くらいから声が掛かった。
成功報酬でのコンサルでお金をまあまあ貰った。女友達からも尊敬されるようになった。

ある日、女友達が遊びに来た時に私の部屋を見て、
「男に毎月いくら貰ってるの?私にも金持ちの男紹介して」
と聞かれた。

驚いた。実は恋人にお金を貰ったことは無い。(プレゼントはある)

目を見張って彼女を見た。

友達面して、「もえちゃん、仕事頑張ってて凄いね」と言いながら、心の底では私のことを愛人業で稼いでいる女だと見下していたのだ。

彼女とは喋らなくなった。いや、喋れなくなった。彼女の嘘と建前の会話についていけなくなった。

もっと、難しい仕事がしたいと思った。

誰にもバカにされない仕事。

社会の役に立つ仕事。

世界で通用する仕事。

そう思っていたら、マイケルと知り合って、原発事故が起こったのだ。
それで、この会社を立ち上げた。

何でも努力で乗り越えてきた。

だから、何でもできると思っていた。

いや、驕っていたんだ。

運が良かっただけなのに、甘かったんだ。

「なんだろう」
また、泣けてきた。

バカにされたくないと思って、意地張って生きてきて、気が付いたら訳の分かんないところに辿りついた。

そう言えば離婚の時、彼は「女は愚かだ」と言った。
彼の言う通りだ。私はいつまでも夢を見るバカで愚かな女だ。

結婚生活を続けていれば、どれだけ幸せだっただろう。

孤独に苦しむことも無く、楽しく生きていけたはずだ。

努力すれば、何でもできるなんて幻想だったのだ。

午前10時。

泣いている場合じゃない。

これから裁判だ。

着替えようとクローゼットを開ける。

ブランド物の山。

無駄遣いせずに現実的に生きるべきだった。

自分の愚かさを悔いながら、家を出た。

東京地方裁判所にはその日も梶原弁護士の部下宮西弁護士がいた。

こちらは畑中事務所の先生だ。

裁判は先生に任せて、深田は力なく傍聴席に座った。
『自分みたいなバカ女に出る幕は無い』と、そう思って、裁判を傍観していた。

遠田真嗣裁判官がアルファアイティーシステムの弁護士宮西に向かって、

「さて議論も出尽くしたので、次回は証人尋問をやって、その次判決を出しましょう」
と言った後に私の代理人を振り返り、

「被告代理人もそれでいいですね?」
と聞くと、こちらの代理人がおどおどしながら、「え、ええ」と答えかけた。

「ちょっと待てぇ!」

法廷に女の声が響いた。

傍聴席に座る弁護士たちが何事かとこちらを振り返った。

私だった。

立ち上がっていた。

自分でも気が付かなかった。

「被告は異議があるのですか」
遠田裁判官が冷たく言い放った。

法廷で傍聴席から声を上げることは禁じられている。

心証を悪くすれば裁判で負ける。

弁護士から100回言われた言葉だ。

心証悪いも何も、負けが見えてる。

それどころじゃない。
「被告」
また、裁判官から呼ばれる。

緊張で喉が張り付く。

「うちの副社長が失踪して、裁判記録の原本もこちらに有利な証拠も何もかもなくなっているのにそれで公正な裁判ができるのか!」

「では、証人尋問は?」

「まだ議論は出尽くしていない!」
叫んだ。

既に会社を失った。裁判まで負けたら、人生まで失う。

「それでは一カ月後にもう一度口頭弁論を開きます」

「一カ月では無理だ。証拠も記録も全て失って、一カ月で準備しろと言うのですか」
粘った。自分で裁判の書類を用意するにも時間が必要だった。

「それでは、二カ月後にしましょう」

そう告げられて、裁判官は法廷を後にした。

エレベーターで自分の代理人が「先ほどはありがとうございました」とお礼を言ったが、何も答えられなかった。

弁護士が、法廷で私の代弁をしてくれたことがない。

異議を唱えるのはいつも自分だ。

深田はタクシーで自宅に戻り、部屋にあるブランド物バッグやアクセサリーを集めて紙袋に入れた。元彼からもらったティファニーのダイヤも一瞬手に取ったが、躊躇して棚に戻した。

紙袋を掴んで、車で銀座へ向かった。

まだ、戦える。これからは自分で戦うんだ。

「え、これ、全部ですか?」
ブランドショップ買取専門店の店員が驚いた。

「はい、全部です」

深田は応えた。

今の自分には、必要のないものだから。

TO BE CONTINUED

第31回戦 キーパーソン

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「クレイジーだな」
深田の新会社を立ち上げようという提案をマイケルはSkype越しに笑った。全部持ち逃げされて、何も残ってないのに、また会社やろうなんて、確かにちょっとバカげてる。

「資金はどれだけあるんだ?」

「会社の登記して、一ヶ月分の資金繰りと私の一ヶ月分の生活費よ」

一ヶ月しかもたないのに会社始めるなんて本当にどうかしている。どこまでお前は博打打ちなんだと、自分でも言いたくもなる。

実家へ帰ることも考えたけど、今、諦めたらきっと後悔する。諦めるなら、コテンパンにやられて二度と立ち上がれなくなるまでやられてからだ。ま、けっこうやられたけど。

「一ヶ月か。日本のチャイナリスクが高過ぎるから俺は出資できない。それでもやるのか」

「出資はいらない。すぐに営業に出るから、技術だけ出して」

金は無くても技術があれば、営業で取ってこれる。

「慌てるな、2日待て。そして、株主に相談して全員の了承を得ておくんだ」

そう言って、マイケルはSkypeを切った。

2日後、マイケルは新しい開発中の基板を持って日本ヘ帰ってきた。マイケルのアパートの共有スペースで、マイケルは基板を広げた。もう、我々にはオフィスすら無いのだ。

「なにそれ?」

「音速機の遠隔運転で使おうと思ってた、高速動画伝送システムだ。コンシューマ規格に直した」

「今どき動画配信なんて誰でもやってるし、YouTubeでもできるよ」

「そうじゃない。動画配信サーバーを経由せずに高速で動画を伝送するシステムはまだコンシューマの世界には無い」

ネットでマイケルの開発した動画伝送システムのスペックとコンシューマのスペックを比べた。

有線伝送でも世界最速を謳う米国製品より15倍速い。

無線動画伝送システムで比較すれば100倍速いのだ。

「どの分野に営業かけるべき?」

「医療、防災、遠隔操作系だ」

「じゃあ、今すぐ営業行ってくる」

「ちょっと待て、脳タリンのフカダ。設定にあと数週間かかるぞ」
とマイケルが言い終わる頃には、もう深田は営業に出ていた。

「え、世界最速動画伝送システム?発注します。デモ見せてね」

医療系システムを開発してる会社の社長がそう答えた。

「ごめんなさい!設定が終わってないから、デモまで数週間かかります」

「いいよ、先に発注します」

技術が好きな社長なので、新しい技術は早く買って研究したいようだった。やったー!と、深田は思ったが冷静に考えると仕入れの代金が無い。

「前金お願いします!」

「え、前金?」

一瞬社長は戸惑ったが、「仕方ないなぁ」と同意してくれた。

「よおし、これで一ヶ月延命!」

全財産失って、最後にブランド物売ったお金で立ち上げた会社の寿命が一ヶ月延びた。

このことを株主に報告しなくては。
前の会社解散させちゃって、新しい会社始めるなんて言ったら絞られるかもしれない。

「こちらへどうぞ」

社長室へ通されると、イタリア製のスーツにポケットチーフを入れた品の良い男性が革張りのチェアに座っていた。

深田は恐る恐る経緯を報告した。

「あーはっはっは、さすが深田さんですね。面白い!」
株主はお腹を抱えて笑ってた。

深田はキョトンとする。

「いや、大親友のエリさんに裏切られて意気消沈してるなら、励ましてあげようと思ったけど、やっぱり深田さんなんですね」

「いや、泣いちゃいましたけど、それで終われないです」
そうこなくっちゃ、と彼は笑った。

「最近ちょっとヨーロッパの宮殿でパーティを開いたので僕もちょっと余裕無いけど、資金出しますよ」

「あの、ありがとうございます!!」
深田は会社を出てから、思わず顔が綻んだ。

会社を解散させたのに、怒られるどころか更に応援してもらってしまった。エンジェル投資家達の対応は、天使どころか神の領域に達した。

辛い事があった。

泣いた。

もうダメだと思った。

でも、まだ応援してくれる人がいる。

神様ありがとう。

深田は傲慢でイヤな女でした。

自分の甘さや傲慢さを反省しながら地下鉄に乗ってマイケルの下へ向かった。

「マイケル、資金繰りの目処がついた。これで半年はいける」

深田はアパートの共有スペースに戻った。マイケルは共有スペースを自分のオフィスかのように堂々と使っている。

「GOOD。でもな、フカダ」

マイケルはパソコンを指差した。

「なに?」

マイケルのメールボックスに中国上場企業の役員からメールが来ていた。ファーウェイのコンペティターだ。

「こう書いてある。『御社のキーパーソンを引き抜いたとファーウェイ幹部が自慢しに来たぞ。どうなってるんだ?』ってな」
深田は眼を見張った。

確かに、そう書いてある。

キーパーソンも何も、こんな数人しかいない会社、そんな居なくなったのは一人しかいない。

彼女は脅迫されていたわけじゃ無かった。

彼女は喜んで産業スパイとなったのた。

しかも盗んだのは、輸出規制の民軍両用技術か。

TO BE CONTINUED
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