第18回戦 追記特許攻防とパテントトロール
第19話 四面楚歌
第19話追記 基板メーカーとパチンコ業界の闇
第20回戦追記② 日本の警察とFBI
第21回戦 エリ、副社長へ
第21回戦 追記 エリちゃんと私
第22回戦 破壊された基板
第22回戦追記 飴と鞭に飼い慣らされる日本人
第23回戦 ベンチャーキャピタリスト
第23回戦追記 ベンチャーキャピタルの罠
第24回戦 ベンチャーキャピタリスト②
第24回戦追記 246キャピタルってなんだった
246キャピタルとの出会いも偶然だが、その246キャピタルの本性を知る電話も偶然。
第25回戦 口論
第26回戦 新聞一面に
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第27回戦 何もかも消えて
第28回戦 嗚咽
エリと連絡が付かなくなって何日もが無為に過ぎた。
食事をしようとすると嗚咽で呑み込めず、ダイエットでは落ちない体重があっという間に3キロ落ちた。
「エリちゃんが裏切る?」
裏切ったかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
彼女の意思かもしれないし、そうじゃなかもしれない。
自分が頼りない人間だから、愛想尽かされただけかもしれない。
それは、自分には分からないことだ。
でも、この一年間これだけ脅迫されたり、なんだかんだあったんだから、もしかしたらエリも脅迫されて拉致されたのかもしれない。
そんな考えが浮かんでマイケルに電話をすると、
「脳みそ足りないな。裏切られただけだ」
「毎日エリとご飯食べてたのよ」
「それがどうした。金を積まれたら、お前とするより豪華な食事が一笑できる」
「信頼関係は?」
「金より安いってことだ」
そう言われて、深田はカッとなって電話を切った。
「なんで、マイケルは人の気持ちわからないの」
深田はスマホの電話帳を端から端までチェックした。こう見えても顔は広い。相談に乗ってくれる人が一人くらいはいるかもしれない。そこに、一人のジャーナリストの名前が見えた。
彼は内閣に情報を提供しているジャーナリストなので、もしかしたら政府に繋がっているかもしれない。
「もしもし?」
「あれ、深田さん」
深田はエリが失踪した件で、どこかに相談できないかを尋ねてみた。
「内閣情報調査室ですね」
彼は応えた。
「なんですか、それ」
「日本に諜報機関はありませんが、いわゆる、CIAのカウンターパーティー的な位置づけです。そこに聞いてあげますよ」
「会えますか?」
彼はさぁ、と言った様子で一度電話を切った。数分後にコールバックがあった。
「深田さん、内調はR社の件を把握しています」
「ええ?うちみたいなベンチャーのこと何で知ってるの?」
「雑誌『外交』と産経新聞でしょ。派手でしたからね」
「じゃあ、会えるんですか?」
「内調は、貴女には会わないと回答しました」
「そりゃそうですよね・・・」
深田はただの民間人だ。政府関係の人間が会うわけもない。
オフィスチェアに座り、大きくのけ反って天井を見た。
「議員に相談すればいいのかも」
そうだ、拉致関係に強い保守系の国会議員に相談すべきだ。
居ても立っても居られなくなって、知り合いの社長に拉致に強い議員を紹介してもらった。
議員秘書が会ってくれて、すぐに警察関係や政府系の調査機関に問い合わせるので少し時間が欲しいという回答があった。
数日ほど連絡なしに過ぎ、ある土曜日の朝、Facebookを見るとエリのアカウントが消えていた。エリのブログも、SNSも彼女への手掛かりがどんどん消えてきている。
深田はすぐに議員秘書に電話をした。
早くしないと、手掛かりが消える。
土曜日、日曜日と電話をしても繋がらず、月曜日に秘書から折り返しがあった。
「土日に電話してくるなんて、お前は常識が無いのか!そんな緊急の事態があるのか!」
第一声は怒鳴り声だった。
「あ、すみません。エリの手掛かりがなくなってきているので・・・」
「知るか!警察でも行け!」
そう言って、電話は切れた。
深田はツーツーとなるスマホを見つめた。
「これが拉致問題の議員秘書だなんて・・・」
確かに拉致されたとは限らない。
エリは私を嫌って連絡してこないだけかもしれないし、本当に失踪したのかもしれない。自称エリの母親が本物かどうかも分からない。
無力感で、スーッと涙が流れた。
TO BE CONTINUED
第29回戦 内閣情報調査室
「深田社長、これ、御社の社印じゃないですよ」
信用金庫の営業が深田に印鑑を突き返した。
「ええ?」
エリの親友が「エリに頼まれました」と言って持って来たうちの社印のはずだった。
「そんなはずは・・・」
「社印の陰影が違うでしょ」
言われてみると確かに陰影が違う。
エリに電話をしても繋がらない。LINEもFacebookも無いので連絡しようも無い。
エリの母親を名乗る女性に電話すると、
「それは貴女の気のせいです」
と言っただけで電話は切られた。
「しょうがない・・・」
深田はエリを数年前に紹介してきた会社の社長に電話をした。
トゥルルル、トゥルルル、
コールは鳴るが繋がらない。
共通の知人にメールで『エリを紹介してくれた社長と最近連絡取ってる?」と聞くと、『萌絵ちゃん、知らないの?彼、失踪したってニュースで出てたわよ』とURLが送られてきた。
クリックすると、確かにエリを紹介した社長が失踪したというニュースが出ていた。
「そんなバカな・・・」
失踪したのがエリだけじゃなくて、紹介してきた人間まで失踪しているなんて、そんなことあり得るだろうか。
胸騒ぎがして、ネット上で『小林英里』と検索してみた。エリは学生起業家として有名だったので、色んなサイトで紹介されてきた。
「ない、ない・・・」
エリの情報が全て綺麗にネット上から消えていた。あんなにたくさんあったエリの写真も消えて、彼女と全く関係の無い写真しか検索で上がらなくなってきた。
スパイシーにエリの昔の会社『有限会社壱歩社長、小林英里』が掲載されているが、それすら全くの別人の写真だ。
「なんでそんなことができる?」
このネット社会で、ネット上から自分の写真を消したいと思っても消せないのに、全てが消えるなんてあり得るんだろうか。
「マイケル!」
深田はマイケルを振り返った。
「エリの写真が全てネット上から消えた」
「ほう、なるほどな。そういうことか」
「どういうことよ」
「内閣情報調査室だ」
「内調って、日本のCIAみたいなとこでしょ?」
「そうだ。ネット上から全ての情報を消すなんて、日本では内調しかできない」
「なに?それってどういうこと?」
「内調の中にダブルスパイがいて、エリを匿っているってことさ。一般人にネット上の全ての自分の情報を消すことは出来ない」
そうだ。マイケルがFBIに保護された時、ネット上のマイケルの写真も情報もほぼ全てが消された。そんなことは国家にしかできない。
「内調って、政府の情報調査局が私たちの敵になったってこと!?」
言われてみれば、内調とつながっている人たち数人から「R社のことを内調は把握してますよ」と言われた。でも、全員が「内調は深田とは会いません」と断ってきた。
「福島瑞穂と内調が繋がってるんだろう」
確かに福島瑞穂は内調に何度となく情報提供するように指示している。
「内調のなかにダブルスパイがいるってこと?」
「もちろん。日本の情報は韓国中国に駄々漏れだからな。そのうち、内調内部の人間は消されるだろう」
なんで?と聞こうとした瞬間に株主たちがぞろぞろとオフィスに入ってきた。そうだ、今日は株主総会だ。
「それではこれより、R社の臨時株主総会を開きます」
株主たちを前に深田は総会を開始した。
「株主の皆様、本日はお忙しいなか急な召集にも関わらずありがとうございまし・・・」
深田は謝辞を述べた。
「議長」
マイケルが深田の言葉を冴えぎる。
「R社は、本日をもって全ての営業活動を停止し、解散することをここに求める」
その場の空気が凍りついた。
解散なんて、聞いてない。
説明しろと求める株主、深田はマイケルの顔をみつめる。
「開発は破壊され、全てが盗まれた。ゲームオーバーだ」
マイケルは冷酷に答えた。
TO BE CONTINUED
第29回戦追記 内調について
①消された内調の諜報員の謎
先日、内調の受託をしているというジャーナリストに一年振りに電話をして、偽装裁判について相談しようとした。
そしたら、ぷちキレられました。
仕方ないので電話を切ったけど、なんでキレられたのかよく分からないです。
やっぱり内調は福島瑞穂の工作で中国よりなのか。
内調の内部にエリとアルファアイティのミサイル開発計画を幇助する人物がやはりいるのか。
ここ数年、内調の人間が不審死しまくってますが、ダブルスパイが殺されてるのか、ダブルスパイに気が付いて報告しようとした真面目な人が殺されてるのかはよく分かりません。
まあ、こんだけ死んでるなら、タッチしないに限りますね。
② 内調を超えるテロ情報収集組織
安倍総理は国際テロ情報収集組織を発足する。
ただし、人材が内調や公安から来るのが心配だ。
情報収集組織に人を採用する際にはその人物の情報を収集しなければならない。まずは預金口座、家族や親戚の預金口座、4代前まで家系が遡れるか、幼い頃に入れ替わった成り済まし日本人ではないか、等の基本情報が必要な気がする。
内調と公安の内部では日本の為に働いている人と中国・朝鮮の為に働いている人がいる。
国際的な情報収集する前にまずはその辺から情報収集したほうがいいような気がする。
ミステリー小説ではないが。
「犯人は、このなかにいる」
が正解ではないだろうか。
第30回戦 バカで愚かな女
目が覚めると白い天井が見えた。
顔に違和感を感じる。
ぺリぺリと剥がすと、白い紙が顔に貼りついていた。
枕元はティッシュだらけだ。
そうだ、全て失ったのだ。
4年間、自分の全ての時間と全財産を掛けて打ち込んだ会社が昨日終わった。会社を立ち上げてから、エリの給料を優先して払ってきたので自分の給料は後回しにしてきた。
前の会社を辞めてから6年間、自分は殆ど給料を取らずに貯金で生活してきた。証券口座の資金も注ぎ込んだので、すっからかんだ。
「はは、やるね。エリちゃん。ぐうの音も出ないよ」
都内の高級タワーマンションの一室。
無収入の今では家賃が高過ぎるだろう。
あぜ道の多い田舎で育った自分には、不似合いだなと思わず笑った。
「なんで、こんなことになったんだろ」
低学歴の私が、なんでこんなところに住んでるのだ。
そもそも私は、毎日意地悪されては泣いている気が弱い女の子だった。
母さんは、子供の頃から「萌絵ちゃんがやりたいことは何でもできるのよ」って言ってたのに、夢は何一つ叶わないまま、家族と離れた療養所で二ヵ月過ごし、誰一人訪れないままに成人した。
そこを出たら、全ての時間を自分のやりたい事の為、夢を叶える為に使うんだ。そう誓った。
家に戻ると父は失踪していた。
倒産して全財産を失ったのだ。
無我夢中で就職して、田舎の小さな町工場で事務員になった。
普通のOLだ。
仕事はつまらなかった。
お金も無かった。
それが不満だった。
母さんに夢が叶わないと文句を言った。
「努力すれば夢なんていくらでも叶うのよ」
それが彼女の答えだ。
お金の為に投資を始めた。
転職したくても、スキルが無かったので英語とパソコンの勉強を始めた。
皆に「おまえみたいなバカには無理」と嘲笑われた。
馬鹿にされたくなくて頑張った。
頑張ったら、商社に転職できた。
ところが転職をしても、転職をしても待遇は良くならない現実に絶望した。学歴が無いと笑われて、バカにされて、非正規雇用を転々としたのだ。
だから、努力して大学に入り直した。
学費は無かった。
単位を取りながら五つの仕事を掛け持ちした。
リサーチの仕事で株の知識を深めた。
夫が勉強を教えてくれていたので、少し賢くなった。
最初は褒めてくれてた夫も、いつかは褒めてくれなくなった。
夫が外資金融に勤めていたので憧れて、外資金融に自分も入ることにしたのに夫は反対だった。
結果的に離婚になった。
彼と暮らしていたタワーマンションを出る時、「いつかは自分のお金で高級タワーに住む」と誓った。
そのタワーマンションに引っ越す時が来た。
同じタイミングで金融機関も辞めた。
就職はしなかった。
職を転々とした自分を戒めるためだった。
また、トレーダーに戻った。
生活は出来た。
ただ、虚しかった。
その時、コンサルやってくれと3社くらいから声が掛かった。
成功報酬でのコンサルでお金をまあまあ貰った。女友達からも尊敬されるようになった。
ある日、女友達が遊びに来た時に私の部屋を見て、
「男に毎月いくら貰ってるの?私にも金持ちの男紹介して」
と聞かれた。
驚いた。実は恋人にお金を貰ったことは無い。(プレゼントはある)
目を見張って彼女を見た。
友達面して、「もえちゃん、仕事頑張ってて凄いね」と言いながら、心の底では私のことを愛人業で稼いでいる女だと見下していたのだ。
彼女とは喋らなくなった。いや、喋れなくなった。彼女の嘘と建前の会話についていけなくなった。
もっと、難しい仕事がしたいと思った。
誰にもバカにされない仕事。
社会の役に立つ仕事。
世界で通用する仕事。
そう思っていたら、マイケルと知り合って、原発事故が起こったのだ。
それで、この会社を立ち上げた。
何でも努力で乗り越えてきた。
だから、何でもできると思っていた。
いや、驕っていたんだ。
運が良かっただけなのに、甘かったんだ。
「なんだろう」
また、泣けてきた。
バカにされたくないと思って、意地張って生きてきて、気が付いたら訳の分かんないところに辿りついた。
そう言えば離婚の時、彼は「女は愚かだ」と言った。
彼の言う通りだ。私はいつまでも夢を見るバカで愚かな女だ。
結婚生活を続けていれば、どれだけ幸せだっただろう。
孤独に苦しむことも無く、楽しく生きていけたはずだ。
努力すれば、何でもできるなんて幻想だったのだ。
午前10時。
泣いている場合じゃない。
これから裁判だ。
着替えようとクローゼットを開ける。
ブランド物の山。
無駄遣いせずに現実的に生きるべきだった。
自分の愚かさを悔いながら、家を出た。
東京地方裁判所にはその日も梶原弁護士の部下宮西弁護士がいた。
こちらは畑中事務所の先生だ。
裁判は先生に任せて、深田は力なく傍聴席に座った。
『自分みたいなバカ女に出る幕は無い』と、そう思って、裁判を傍観していた。
遠田真嗣裁判官がアルファアイティーシステムの弁護士宮西に向かって、
「さて議論も出尽くしたので、次回は証人尋問をやって、その次判決を出しましょう」
と言った後に私の代理人を振り返り、
「被告代理人もそれでいいですね?」
と聞くと、こちらの代理人がおどおどしながら、「え、ええ」と答えかけた。
「ちょっと待てぇ!」
法廷に女の声が響いた。
傍聴席に座る弁護士たちが何事かとこちらを振り返った。
私だった。
立ち上がっていた。
自分でも気が付かなかった。
「被告は異議があるのですか」
遠田裁判官が冷たく言い放った。
法廷で傍聴席から声を上げることは禁じられている。
心証を悪くすれば裁判で負ける。
弁護士から100回言われた言葉だ。
心証悪いも何も、負けが見えてる。
それどころじゃない。
「被告」
また、裁判官から呼ばれる。
緊張で喉が張り付く。
「うちの副社長が失踪して、裁判記録の原本もこちらに有利な証拠も何もかもなくなっているのにそれで公正な裁判ができるのか!」
「では、証人尋問は?」
「まだ議論は出尽くしていない!」
叫んだ。
既に会社を失った。裁判まで負けたら、人生まで失う。
「それでは一カ月後にもう一度口頭弁論を開きます」
「一カ月では無理だ。証拠も記録も全て失って、一カ月で準備しろと言うのですか」
粘った。自分で裁判の書類を用意するにも時間が必要だった。
「それでは、二カ月後にしましょう」
そう告げられて、裁判官は法廷を後にした。
エレベーターで自分の代理人が「先ほどはありがとうございました」とお礼を言ったが、何も答えられなかった。
弁護士が、法廷で私の代弁をしてくれたことがない。
異議を唱えるのはいつも自分だ。
深田はタクシーで自宅に戻り、部屋にあるブランド物バッグやアクセサリーを集めて紙袋に入れた。元彼からもらったティファニーのダイヤも一瞬手に取ったが、躊躇して棚に戻した。
紙袋を掴んで、車で銀座へ向かった。
まだ、戦える。これからは自分で戦うんだ。
「え、これ、全部ですか?」
ブランドショップ買取専門店の店員が驚いた。
「はい、全部です」
深田は応えた。
今の自分には、必要のないものだから。
TO BE CONTINUED
第31回戦 キーパーソン
「クレイジーだな」
深田の新会社を立ち上げようという提案をマイケルはSkype越しに笑った。全部持ち逃げされて、何も残ってないのに、また会社やろうなんて、確かにちょっとバカげてる。
「資金はどれだけあるんだ?」
「会社の登記して、一ヶ月分の資金繰りと私の一ヶ月分の生活費よ」
一ヶ月しかもたないのに会社始めるなんて本当にどうかしている。どこまでお前は博打打ちなんだと、自分でも言いたくもなる。
実家へ帰ることも考えたけど、今、諦めたらきっと後悔する。諦めるなら、コテンパンにやられて二度と立ち上がれなくなるまでやられてからだ。ま、けっこうやられたけど。
「一ヶ月か。日本のチャイナリスクが高過ぎるから俺は出資できない。それでもやるのか」
「出資はいらない。すぐに営業に出るから、技術だけ出して」
金は無くても技術があれば、営業で取ってこれる。
「慌てるな、2日待て。そして、株主に相談して全員の了承を得ておくんだ」
そう言って、マイケルはSkypeを切った。
2日後、マイケルは新しい開発中の基板を持って日本ヘ帰ってきた。マイケルのアパートの共有スペースで、マイケルは基板を広げた。もう、我々にはオフィスすら無いのだ。
「なにそれ?」
「音速機の遠隔運転で使おうと思ってた、高速動画伝送システムだ。コンシューマ規格に直した」
「今どき動画配信なんて誰でもやってるし、YouTubeでもできるよ」
「そうじゃない。動画配信サーバーを経由せずに高速で動画を伝送するシステムはまだコンシューマの世界には無い」
ネットでマイケルの開発した動画伝送システムのスペックとコンシューマのスペックを比べた。
有線伝送でも世界最速を謳う米国製品より15倍速い。
無線動画伝送システムで比較すれば100倍速いのだ。
「どの分野に営業かけるべき?」
「医療、防災、遠隔操作系だ」
「じゃあ、今すぐ営業行ってくる」
「ちょっと待て、脳タリンのフカダ。設定にあと数週間かかるぞ」
とマイケルが言い終わる頃には、もう深田は営業に出ていた。
「え、世界最速動画伝送システム?発注します。デモ見せてね」
医療系システムを開発してる会社の社長がそう答えた。
「ごめんなさい!設定が終わってないから、デモまで数週間かかります」
「いいよ、先に発注します」
技術が好きな社長なので、新しい技術は早く買って研究したいようだった。やったー!と、深田は思ったが冷静に考えると仕入れの代金が無い。
「前金お願いします!」
「え、前金?」
一瞬社長は戸惑ったが、「仕方ないなぁ」と同意してくれた。
「よおし、これで一ヶ月延命!」
全財産失って、最後にブランド物売ったお金で立ち上げた会社の寿命が一ヶ月延びた。
このことを株主に報告しなくては。
前の会社解散させちゃって、新しい会社始めるなんて言ったら絞られるかもしれない。
「こちらへどうぞ」
社長室へ通されると、イタリア製のスーツにポケットチーフを入れた品の良い男性が革張りのチェアに座っていた。
深田は恐る恐る経緯を報告した。
「あーはっはっは、さすが深田さんですね。面白い!」
株主はお腹を抱えて笑ってた。
深田はキョトンとする。
「いや、大親友のエリさんに裏切られて意気消沈してるなら、励ましてあげようと思ったけど、やっぱり深田さんなんですね」
「いや、泣いちゃいましたけど、それで終われないです」
そうこなくっちゃ、と彼は笑った。
「最近ちょっとヨーロッパの宮殿でパーティを開いたので僕もちょっと余裕無いけど、資金出しますよ」
「あの、ありがとうございます!!」
深田は会社を出てから、思わず顔が綻んだ。
会社を解散させたのに、怒られるどころか更に応援してもらってしまった。エンジェル投資家達の対応は、天使どころか神の領域に達した。
辛い事があった。
泣いた。
もうダメだと思った。
でも、まだ応援してくれる人がいる。
神様ありがとう。
深田は傲慢でイヤな女でした。
自分の甘さや傲慢さを反省しながら地下鉄に乗ってマイケルの下へ向かった。
「マイケル、資金繰りの目処がついた。これで半年はいける」
深田はアパートの共有スペースに戻った。マイケルは共有スペースを自分のオフィスかのように堂々と使っている。
「GOOD。でもな、フカダ」
マイケルはパソコンを指差した。
「なに?」
マイケルのメールボックスに中国上場企業の役員からメールが来ていた。ファーウェイのコンペティターだ。
「こう書いてある。『御社のキーパーソンを引き抜いたとファーウェイ幹部が自慢しに来たぞ。どうなってるんだ?』ってな」
深田は眼を見張った。
確かに、そう書いてある。
キーパーソンも何も、こんな数人しかいない会社、そんな居なくなったのは一人しかいない。
彼女は脅迫されていたわけじゃ無かった。
彼女は喜んで産業スパイとなったのた。
しかも盗んだのは、輸出規制の民軍両用技術か。
TO BE CONTINUED