「そろそろファンドレイズ(資金調達)するか」
マイケルがそう切り出した。
この会社を立ち上げる時、深田がシードマネーを準備し、エンジェルからファーストステージの資金調達を行なった。
「この次はベンチャーキャピタルだな…」
深田がベンチャーキャピタルを避けてきたのは、ベンチャーキャピタルは企業を潰すケースがかなり多いからだ。
銀行系は融資並みに資産を要求するし、企業系VCからの出資は独立性が保てなくなる。保険系は不要になった株を暴力団に転売したりするという結末になることもある。
深田にとっては、投資詐欺よりも投資する詐欺師の方が怖いのだ。投資詐欺は金を取るだけだけど、投資する詐欺師は会社を乗っ取り金も事業も技術も社員も盗んでいく。しかも、弁護士も付けたうえで法律スレスレに騙してくるので訴訟も大変だ。
「それに、技術が理解できるキャピタリストが殆どいないんだよね」
以前に政策投資銀行のビジネスコンテストに出てファイナリストまで残ったが落選した。理由はディスプレー製品が無いからという勘違い甚だしいものだった。うちはチップ設計だと何度も説明したのにと、コンテスト会場で揉めて、最後に舞台裏で政策投資銀行の社長が「審査員が技術音痴ですみませんでした」とお詫びまでしてくれたのだ。
別に政策投資銀行だけが技術音痴な訳ではない。
今の投資トレンドは技術よりもサービスが主流なので、難しいハードウェア設計に投資なんかはしないのだ。
ベンチャーキャピタル選びは難しいのだ。
「もえちゃん、Googleに会社を売ったロボット技術の加藤さんがファンドを立ち上げ他みたいです」
「え、シャフトの加藤さんが!?」
シャフトといえば、ロボット技術で有名なベンチャーで会社をGoogleに売却して、一躍時の人になった。
「うちの技術、ロボットアイに組み込めるから会いたいな」
そう思い深田は246キャピタルにメールをしたが返信は無かった。
ま、仕方ない。
そう思いながら、金融機関時代の先輩が六本木ヒルズで開くランチ会に参加してシャンパンで乾杯をした。
「カンパーイ!!」
久々にシャンパングラスを握ったと気が付いた。華やかな外資金融から、地味なモノづくりへと自分は変わったのだ。いや、意外と性にあってるかもしれない、なんてことを考えていた。
「深田ちゃん、何を深刻な顔してるの?オトコに困ってるんでしょう?」
金融機関史上最も美しいと呼ばれた先輩がニコニコ笑っている。
「あ、イヤイヤ。オトコに困ってるのも事実ですが、ベンチャーキャピタル探しにも困ってるんですよ」
深田は弁明した。
「あら、その2つの課題を同時に解決できるゲストが来るわよ」
先輩はプププと含み笑いをする。
「あ、お待たせしました」
小洒落たスーツにサングラスを掛けた30代の男が現れる。端正な顔立ちからは、ストリートスマートな雰囲気が漂ってる。
「こちら、深田ちゃんよ。自己紹介宜しく」
先輩がそう言うと男は口を開いた。
「246キャピタルのコ・ファウンダー(共同創始者)のIです」
「ええ!?」
深田は驚きで声を上げた。加藤さんでは無かったが、その共同創始者が現れた。
昔、母さんに言われた事がある。
『お前の人生って良くできてるわね。必要な人が自動的にタイミング良く現れて』
深田の運命やいかに…
続く